第19話 人の価値は結果よりも姿勢だよ! 4


「一回帰ろうか今日は。もう六時だし。」

「だな。」

「うん。」


 結奈の提案に陽介と怜が賛同する。


「うん、そうだね。帰って考えてみるよ。」


 悠は怜の自転車のハンドルを掴むと、ハッと顔を上げる。


「あ、どうしようか。」

「うん、いいよ遠いでしょ? 二人の家まで乗せてってよ。私達そこから自転車で帰るから。」


 怜はそう言って悠の後ろに乗る。結奈は陽介の後ろに。


「ありがとう、よし帰ろう。」


 二台は海沿いの道を走り出した。

 まだ夕焼けになりかけて間もない空。東の方向には房総半島が見える。二台は会話もなくただ海沿いを進む。

 悠はしばらく考えるのをやめて四人でいるこの状態を楽しむことにした。

 婆ちゃんしか理解者がいなかった自分が、今ではこんなにも心強い友達が三人もいる。悠は自然と笑みをこぼす。

 しばらく進むと国道との交差点があり、四人は長い赤信号に一度自転車を降りる。


「それにしても亜美ちゃんっていっつもあれなんだな、何だっけ? カスタードだか饅頭だか。」

「プリンね。」

「あなたわざと間違えてない? そうじゃなかったら馬鹿だよ馬鹿。字が上手だって馬鹿じゃしょうがないんだからね。」

「はぁ? 何だよ、それじゃかわいいって噂のお前の字ぃ見せてみろよ。」

「何よ! 陽介だってほんとに上手なのか見てみないとわかんないし! 私は信じない!」

「いや、陽介は本当にうまいんだ。」


 二人の夫婦漫才に悠が割って入る。後ろの怜は西の方向、遠くに見える山を見ている。


「そんなの見ないとわかんない!」

「じゃあ書いてやるよ、可愛い字の手帳出せよほら。」

「陽介、女の子には優しくしなくちゃいけないんだよ。それは僕達男性の責務なんだ。」

「そうだよね! 悠は優しくて紳士的! 陽介なんかゴリラだよ!」

「ゴッ!?」

「ちょっと字が上手だからって偉そうにしてさ、サボってないでちゃんと習い事に行きなよ! 人の価値は結果よりも姿勢だよ! そうゆう姿勢!」

「私は結果だけでいい。」


 遠くを見ていた怜が、遠くを見ながら口を挟む。


「怜は普通じゃないからいいの! 悠はどうなのよ!」

「うーん、僕は両方欲しいかな。」


 ニコニコとしながら答える悠の顔をみた結奈は「はぁ」と肩を落とすと「もういい。」と言って海の方を見る。


「ごめんごめん冗談。そういえば陽介、聞いてなかったけど書道来ない時って何してんの?」

「ん? あぁ。いや、とくに。」

「そうなの? サッカーでもやってるのかと思ってた。」

「いや、やってない。」

「ああそうなんだ?」

「そういえば三毛猫どうすんの? 明日も亜美ちゃんやるのか?」


 陽介は悠の後ろ、怜に聞く。


「ん? んー、わかんない。悠の引っ掛かりが解けるかどうか次第かな。」

「ちょっと待って!」


 悠が突然大きい声を出した。後ろの怜が飛び跳ねる。


「な、何よびっくりしたなもう!」

「悠、待つも何も俺達はこの長い信号で待ちっぱなしだぞ。」


 結奈はまだ海の方を見ている。


「三毛猫。」

「あぁ?」

「陽介、三毛猫の色、そうだ。」

「はぁ? 黒と茶色だろ?」

「あと白ね。」


 前回と同じ陽介の発言に、前回と同じように怜が突っ込む。その直後、怜は大きく目を見開く。


「悠! もしかして!?」

「え!? うそ!?」


 結奈が驚いた表情で悠に振り向く。


「うん、確証はないけど、その仮定を当て嵌めれば説明はつく。」

「強引だよ! そんなの別の人だって成り立つじゃん!」

「被害者目線ならね。でももし、」

「彼が犯人なら、彼の不審な行動の説明だけは出来るわね。」

「いや! いや、でも強引だと思うけどな。」

「こういうのは直感だよ結奈。」

「おい、待てって、おまえら何の話をしてるんだよ。」


 陽介は眉を寄せて三人の顔を忙しく見ることでついていこうと努力する。


「その三毛猫は黒と茶色なんだ。」

「は? あと白だろ?」

「いや、白はないんだ。」

「それじゃ二色じゃん。」

「うん、用務員さんが犯人だって話だよ陽介。」


 一瞬の静寂。

 海風が潮を運び、四人の体にまとわりつかせる。

 東の空からは夕闇が迫り、国道を行く車が次々とヘッドライトを点け始める。

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