第8話 実家

 土曜日。


 会社は休みだが365日同じ時間に設定しているアラームが月を呼ぶ。前日のロング缶が効いたのか月はアラームを止めて二度寝をする。


 今日実家に帰る予定だ。特に何かある訳では無いが、人の住んでいない家は朽ちるのが早いと聞く。空気の入れ替えをする為に帰省をするのだ。


 月の父は、3年前に世界を襲ったパンデミックに巻き込まれて亡くなった。面会はおろか葬式すらあげる事が出来ず、父の顔を最後に見たのは、病院の配慮によって出棺前に二重のビニールに包まれ、棺桶に入った父の姿だった。

 火葬場でも収骨は無く、骨壷を渡されただけ。

 全てが味気なく、全てが素っ気なかった。


 母はもう10年以上、介護の世話になっている。

 痴呆症、ってやつだ。

 母は、料理がすごく上手だった。

 何を食べても美味しかった。


 「これは、私のオリジナル料理よ!」


 って、自信満々の料理…………


 ひき肉とかを、絶妙に味付けした、レタス巻。


 ホームに行く前、母にこの料理を頼んだ。


 「昔から、あんたはこれが好きやったなぁ……」


 出来上がった料理は、


 …………全然違うものだった。


 今はもう、俺が誰かも分からない。


 そんな、実家。誰も居ない実家。


 ロング缶を開けて………… 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る