第3話 楽しみにしているよ。手を抜いた戦い程見ていて退屈なものはないからね
マガコーでは学生の従魔王の戦績が全て記録され、種目ごとにランキングが張り出されるようになっている。
今年負けなしでランキング1位の東が負け、北斗が勝ったことはランキングをチェックしているマガコー生達の間で騒ぎになるのは必然である。
「罰ゲームの内容だけど、俺が困った時に俺のお願いを必ず守ってくれ」
「それで良いんですの? 私は別に構いませんけれど」
「構わない。そろそろホームルームが始まるし、教室に行こうぜ」
「そうですわね」
北斗と東は2年生であり、2年A組の教室に向かう。
教育カリキュラムに従魔王が導入されているマガコーだが、勉学や運動も軽視している訳ではない。
それゆえ、クラス決めは各学年毎に総合成績順でA組~E組へ割り振られる。
E組でビリの成績だから退学させるという訳ではないが、逢魔大学への内部進学をする際にA組から順番に好きな学部を選べるため、マガコー生はA組を目指している。
由緒正しき家柄であるから、北斗も東もA組以外両親が許さず、本人達も1年からずっとA組をキープしていたりする。
A組に入ると、既に登校していたクラスメイト達が押し寄せる。
「土御門君、賀茂さんにカードバトルで勝ったの!?」
「賀茂さんが今年に入って初黒星かぁ…」
「賀茂さん、土御門って強かった?」
がやがやと騒がしくなるが、そこにA組担任の
「諸君、何をしている? ホームルームを始めるから席に着け」
幸徳井は厳格なクール眼鏡教師であり、一度も笑ったところを見たことがないため、マガコー生から女王と呼ばれている。
元々は教師ではなかったが、逢魔大学とマガコーが設立された時に校長がスカウトして教師になった経歴を持つ。
マガコーの担任教師は担当クラスで従魔王に加え、担当科目を教えることになっていて、幸徳井の担当科目は日本史だ。
北斗達は席に戻り、日直が挨拶をする。
「起立、気を付け、礼。おはようございます」
「「「…「「おはようございます」」…」」」
「着席」
まるで軍隊のようにきっちりと挨拶をしたら、幸徳井が連絡事項を伝え始める。
「今日は1時間目に抜き打ち査定を行うことになった。諸君の日々の成果がそのまま評価される」
抜き打ち査定とは、従魔王のアプリの進捗確認のことだ。
マガコー側は不定期にマガコー生の従魔王の進捗を確認し、その上で学内ランキングと学業の面成績を足し合わせてクラス間の学生の入替を実施する。
一般的なクラスであれば、この発表があるだけでざわつくのだが、A組は担任が厳格な幸徳井なのでざわつくことは許されていない。
インパクトの大きな抜き打ち査定の発表が終わり、それ以外の連絡事項も淡々と伝えられてそのまま1時間目に突入する。
席順で幸徳井が学生のスマホをチェックするから、学生は従魔王を起動した状態で待機する。
1クラスあたり30人いるのだが、北斗の席はA組の左後ろの角だから幸徳井が最後に確認することになる。
幸徳井は北斗のスマホに目を通しつつ、北斗に話しかける。
「土御門、今朝訓練室を使ったな」
「はい。東から勝負を挑まれたのでカードバトルをしました」
「やる気のないお前がやる気を出す分には歓迎するが、なかなか食えないデッキを使うじゃないか」
「俺の知る限り、誰もこういうデッキは使ってませんから。対策されにくいと思いまして」
北斗は癖のあるミミックデッキを組んでいるが、それは趣味でそうしたというよりも戦うことを前提に勝てるデッキを組んだという意味合いが強い。
その意図を理解できたからこそ、幸徳井はフッと笑った。
(女王が笑った…だと…?)
イレギュラーな事態が起きて、北斗は思わず目を見開いた。
マガコーに来て初めてのことだから、何かの間違いではないかと思ったのである。
「よろしい。これは返却しよう」
「ありがとうございます」
1時間目が終わって幸徳井がA組を出て行くと、10分休みが始まる。
その瞬間、A組の学生は北斗に詰め寄る。
「どういうことだよ土御門!? 女王が笑ったぞ!」
「一大事じゃねえか! マガコー掲示板が大騒ぎだぜ!」
「一体どんなデッキを使ってるの?」
「俺にもなんであの人が笑ったのかわからん。とりあえず、次は体育だから準備しないとヤバくね?」
2時間目は体育だったから、男子も女子もそれぞれ更衣室で着替えてグラウンドに移動する。
この時期の体育は男女共に陸上をすることになっており、来月初旬にあるマラソン大会のために授業内でもマラソンの練習として30分間走が行われる。
3時間目と4時間目は座学で、昼休みを挟んだら5時間目も座学だ。
6時間目は従魔王のコンテストを授業内に行うが、これはコンテスト用訓練室で行われ20人が選出した各々選出した従魔でコンテストをして、順位が高い生徒程ポイントが貰える。
北斗はコンテストのランキングでA組の10位をキープしていたから、今までのA組内では程々にポイントを獲得していた。
『今までは余力を残してクラス平均を狙ってた訳だが、もうそんなことはしないんだろ?』
(まあね。意図的な順位操作はもう止めだ)
『楽しみにしているよ。手を抜いた戦い程見ていて退屈なものはないからね』
Dは今朝の戦いもしっかり見ており、北斗が東に勝ったことを喜んでいた。
コンテストでもわざとクラス平均を狙うスタイルは、Dにとって退屈だったらしい。
それもそのはずで、Dは北斗がコンテストに本命を出していないとわかっているからだ。
「諸君、10秒以内にコンテストに出す従魔を選べ」
基本的にコンテストで戦わせる従魔は変わらないから、幸徳井は学生達に準備の時間をほとんど与えない。
だからこそ、北斗が前回のコンテストと別のモンスターを出してきたことに学生達は驚いた。
「トライデントブルー…、知らない爬虫類型モンスターだわ」
「スワンプサーペントじゃなかったのか?」
「まさか、特殊進化したっていうの?」
「諸君、静かにしろ。選出した時点で何を言おうが結果は変わらない」
幸徳井に窘められれば、学生達は言いたいことはあれど口を閉じるしかない。
コンテストに選出する従魔は、カードバトルと同様でURとSR、R、Nの4種類のレアリティがあり、最初はNのレアリティのモンスターしか選べない。
選んだ従魔はポイントの割り振りやポイントによって買えるアイテムで育成し、レアリティが上がると進化する仕組みだ。
ポイントの割り振りだけだと通常進化しかしないが、アイテムを使うことで特殊進化をすることもある。
大半のマガコー生はRの従魔を所有しており、ごく少数のマガコー生がSRの従魔を所有している。
北斗の場合、今まではポイントを貯めるだけ貯めていて、ポイントの割り振りやアイテムの使用をせずにいたからRのスワンプサーペントで戦っていたが、昨晩の時点でポイントの割り振りやアイテムを使用し、SRのトライデントブルーに特殊進化させていた。
コンテストでは従魔の容姿と賢さ、一発芸の3つの項目で競う。
SRの従魔を所有しているのは、北斗の他に東しかいない。
そんな東はコクオーを選出しており、今まではA組のコンテストで1位を取り続けていた。
「SRの従魔が2体。マガコー生ということを差し引いても、今日のコンテストはレベルが高いじゃないか」
幸徳井が午前に続けて再び微笑し、北斗がトライデントブルーを選出したことと同じぐらい騒ぎになりかけた。
騒ぎにならなかった理由は、騒げば貴重な幸徳井の笑みが二度と見られなくなるかもしれないからだ。
容姿と賢さ、一発芸はそれぞれ、アプリ内のAIが10点満点で採点を行う。
補足すると、賢さは10問の○×クイズを従魔が答えて正解した数で点が決まり、一発芸は育成画面で設定したものを従魔が披露してAIが採点する。
それゆえ、幸徳井が言った通りに選出したら結果は変わらない。
(俺と東の一騎打ちになっちゃったな)
容姿はトライデントブルーとコクオーが8点で同点。
賢さはトライデントブルーとコクオーが8点で同点。
一発芸はトライデントブルーの水芸、コクオーの踏み付けによる衝撃波の遠当てで8点で同点となり、1位が24点の同点でトライデントブルーとコクオーに決まった。
「賀茂も土御門も大したものだ。SRの従魔での平均得点が21点と言われていることを考えれば、このコンテストで両者の従魔は期待以上のパフォーマンスをしたことになる。3位以下の諸君、2人を見習って精進せよ。今日はここまでとする」
この後、劇的ビフォーアフターで東と引き分けた北斗の下に、クラスメイト達が育成のコツを教えてくれと殺到したのは言うまでもない。
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