第5話 それぞれの選択

「ええと、私から教えるね。160ポイントで獣人にしたから残り150…転生したら【天賦】は表示されないのね」

「そうね。それぞれの項目のポイント数も、見えないよね」

「生まれつきの才能は変えられないから、でしょうか。でも比較のため、【天賦】やポイントもお願いできますか?」

「うん。【時空を渡る者】はいらないよね?」

 輝くような笑顔で頷いた百桃が口火を切り、石で地面に刻みつけていく。


 ミキハナモモ

【種族】獣人【魔物狩の装備】(5)

【天賦】【獣化】(0)【俊敏】(0)【美形】(10)【砂魔法の素質】(25)【剣術の素質】(5)

【能力】【砂魔術:第三段階】(20)【剣術:第五段階】(55)【調理:第二段階】(15)【狩猟:第一段階】(5)【俊敏:第二段階】(5)【剛力:第一段階】(5)


 あの時空では百桃が刻む通りの表示だったけれど、転生した後に見えているのは、わたしと同じくこんな感じだろう。


 ミキハナモモ

【砂魔術:第三段階】【剣術:第五段階】【調理:第二段階】【狩猟:第一段階】【俊敏:第二段階】【剛力:第一段階】


「百桃は【剣術】を第五段階まで上げられて【剣術の素質】も5ポイントでとれたのね。さすがは獣人…それにしても、随分と思い切った構成にしたよね?」

「うん。他の…あの、魔物とかを近付けないように、二人を守ろうと思って…」

 橘花くんに他の女の子を近付けないように、という本音が零れたね。学校でも「あそこ、結界が張られていない?」と密々ひそひそする女子が多かったのは内緒よ!


「砂魔法を選んだのは、どういう意味合いですか?」

 橘花くんが顎に手を当てて思慮深げな表情を見せつつ百桃に尋ねる。

「うん、獣人で魔法の素質をとるには25ポイントも必要だったけど、砂魔法で足元を崩せれば強いかなあ、と思って」

「成程。魔法を使える獣人は、非常に珍しいみたいですからね」


 得意そうに豊かになった胸を張る百桃。ちょっと、ワザとやってない? 思わず橘花くんを窺うと、ちゃんと目線を彼女の顔に固定している。彼は完璧な紳士だから。絶対に変な視線は向けてこないもの。紫の瞳と目が合った百桃は、いつも通り頬を染めて視線を外してしまったけれどね。


 わたしの【魔法学:第二段階】の知識に拠ると、獣人の魔術士アルティスタは、まず存在しない、という希少さらしい。初見殺しの必殺技になること間違いなしかな…魔法使いは段階によって名称が違うのね。一般名は杖使いバシロールで、特に低段階の魔法使いを指す感じだけれど、はっきりしない。でも今は百桃のスキルよね。


「百桃、砂魔法以外は基本的に種族ボーナスってこと?」

「うん、【俊敏】はポイント無しで第一段階、【剛力】は5ポイントで第一段階にできたから…そのおかげで【剣術】が第五段階まで届いたようなものね。【狩猟】と【調理】も獣人は5ポイントで第一段階になったから」

 武術系スキルを第五段階にするには【俊敏】【剛力】【不屈】を三つとも第一段階にしなくても良かったのね。


 百桃は、お料理が得意中の得意だ。橘花くんにお弁当やお夕食を作ってあげていた。でも、これだけアプローチしておきながら告白しないのだ。焚きつけたことは何度かあったけれど…「璃花。私がそんなこと、できる訳がないでしょ?」って、首を振るばかりなのよね。


「真榊さん、次は僕でいいですか?…205ポイントでしたので森人に20ポイント使って、残り185ポイントです」


 タチバナショウ

【種族】森人【魔術士の装備】(5)

【天賦】【長命】(0)【美形】(0)【水魔法の素質】(0)【風魔法の素質】(5)【光魔法の素質】(10)【時空魔法の素質】(15)【投擲術の素質】(15)

【能力】【水魔術:第一段階】(5)【風魔術:第一段階】(5)【光魔術:第四段階】(35)【時空魔術:第四段階】(35)【投擲:第二段階】(10)【医学:第二段階】(15)【魔法学:第一段階】(5)【博物学:第一段階】(10)【耐性:第一段階】(5)【探知:第一段階】(10)


 橘花くんの今のステータス表示も、実際にはこうだろう。


 タチバナショウ

【水魔術:第一段階】【風魔術:第一段階】【光魔術:第四段階】【時空魔術:第四段階】【投擲:第二段階】【医学:第二段階】【魔法学:第一段階】【博物学:第一段階】【耐性:第一段階】【探知:第一段階】


「橘花くん、さすがねえ。205ポイントもあるなんて!」

 百桃が感嘆する。わたしはというと、自分が165ポイントだった時点で最高は200ポイントかな、なんて想像していたのよね。5ポイントは【装備】の分だろう。そして最高ポイントを貰えるのは、橘花くんだろうことも。こう見えて百桃もわたしも成績はかなり上位だけれど、橘花くんは余裕でトップだったからね。


 わたしたちの高校…都立うてな高校、通称ダイコウは公立ながら全国有数の進学校。橘花くんも国公立大医学部志望で、しかも合格間違いなしと言われていた。賢さだけなら200ポイントで不思議はない。でも彼は、走ったり泳いだりは普通でも球技や武道は苦手だった。神様の評価は、頭の良さ重視ということ?


「希少性が高いだろう光魔法と時空魔法を選べばアドバンテージになると思って、ポイントを注ぎ込みました。それから清潔な水が出せそうな水魔法は必須として…風魔法はエルフのイメージに引き摺られたかもしれません」

「わたしも光魔法は考えたけれど、希少過ぎるのもリスクがあるかな、と不安に駆られてしまって…」


 そして、それは強ち間違っていなかったかもしれない。転生して初めて分かった【魔法学】の知識だと、そもそも普人で魔法を使えるのは百人に一人くらい。光魔法は数千人に一人という希少魔法で、時空魔術士に至っては十万人に一人という程度。ちなみに魔法が使える獣人は、数値の目安の知識がなかった。


 言うまでも無く、全員が魔法をひとつ以上使える森人は、もっと割合が高い。それでも光魔術士は百人に一人くらいで、時空魔術士も数百人に一人くらい。何しろ、属性魔法は纏めて「四魔術」と呼ばれているけれど、光と時空は「恩寵魔術」なのだ。その貴重さが分かるというものよね。


「確実に強みになるとは思うけれど…特に希少な時空魔法と、百桃が獣人なのに魔法が使えることは、可能な限り隠すという方針を執るのが無難よね? 二人とも、それでもいい?」

 それがいい、そうしよう、と三人で頷き合った。

「最後はわたしね。わたしも結構、特化型にしたから…」

 

 地面には、あの薄明の時空でのステータス情報を刻んだけれど、実際はこうだ。


 マサカキリカ

【火魔術:第五段階】【魔具術:第二段階】【棒術:第一段階】【薬術:第二段階】【商売:第一段階】【魔法学:第二段階】【復調:第一段階】【耐性:第一段階】


「火魔法に特化して【魔具術】で便利な魔道具が作れて【薬術】でポーションも作れれば…と思ったのだけれど。【魔具術】は錬金術とはかなり違うのよね。魔術士?杖使い?の魔法を【定着】させる魔道具しか作れない。それに、いわゆるポーションは存在しないみたいよ」

 これを聞いた百桃が、可愛らしく驚いた表情で確認してくる。


「璃花、振りかければ忽ち傷が治る、ゲームのようなポーションは無いの?」

「そう。飽く迄も薬草から作る普通のお薬…わざわざ「薬草木」と翻訳されるから、薬用の木が多いのかもね」

「…光魔法で治療ができるから、ポーションが発達しなかったのかな。でも橘花くん、そうすると、この世界の【医術】【医学】はどういう役割になっているの?」

 百桃が必殺の笑顔で尋ね、橘花くんも至高の笑顔で答える。


「元の世界と同じですよ。普通の医師…医術士メディクスか…に必要な【医術】は「魔法に依らずに治療する技」でしたから。そうそう、光魔術は第三段階から「心身を癒すことに熟達するための学問」の【医学】第一段階が必要でした。この世界の光魔法は、医学知識が無いと一定以上の魔術を使えない仕組みのようですね」


 わたしは光魔術を殆ど試さなかった。各種スキルが第三段階から学問や身体能力などの付帯条件が加わるのは、間違いなさそうね。でも、光魔術は【魔法学】【医学】が必要なのね。他にも…尋ねようと思ったけれど、橘花くんが百桃に説明しながら、わたしに向けかけた視線を戻した動きに気を取られてしまった。


 ふと視線を落とすと…後ろ手に組んでいる所為もあるのか、厚手のローブを突き上げているのが分かって狼狽してしまった。わたしも転生で少し大きくなったと感じたのは気の所為では無かったのかも…胸には視線を感じなかったけれど。橘花くんだから。わたしは組んでいた手をゆっくりと解した。


「あ、あの場所でも思ったけれど、本当に現実の異世界に来たのねえ…」

 わたしは本気で嘆息する。転生後も、頑張って勉強したり訓練したりしないといけないのね、と改めて覚悟した。

「…でも偶然だけど、剣士、魔法使い、僧侶という感じで、バランスが取れた良いパーティになったかもよ?」

 百桃が小首傾げで励ましてくれた。可愛い。橘花くんも頷いている。美しい。

「それでは、いよいよ魔法で出来ることを、この目で確認してみますか!」


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