此方つ
「んー、クリーム、ビーフ、カレー、ハヤシライスもいいわね……いや、ポトフで素材の勝負してもいいし、ラグーソースのパスタもありね」
作りたい料理がたくさんあって悩んでしまう。
丹桜も早くいろいろ食べられるようになったらいいのに。お母さんがんばって丹桜の舌を肥えさせちゃうよ。
おや、
でもあの子、何を見てこんなはしゃいでるの?
鍋の火を止めてから丹桜のいるリビングを覗いて、私は絶句する。
うちの可愛い赤ちゃんが、ちみっこいのに埋もれてるんですけど!?
なにあれ、何匹出て来てんの!? いや、ちみっこいの数えるのに匹は間違い? 人? いや人じゃないだろ、あれ。
いや、そうじゃない! そうじゃないぞ、私、しっかりしろ!
早く丹桜を助け出して……でも丹桜楽しそうな声上げてるよね……危なくはないの、あれ。ピーターパンが見えてる的な? あ、待って、ピーターパンだとうちの丹桜がさらわれるじゃない。
あ、丹桜に引っ付かないでベビーベッドの柵に腰かけてる奴と目が合った。
「ほば」
あれ、
火食むが私を指差すと、丹桜に乗っかってたちみっこいの達が一斉にこっちに顔を向けた。
うわ、全員同じ顔してる。丹桜含めて七つ子に見える。
「ちょっとあんたたち、毎回言うけどさ、うちの子に悪い事してんじゃないでしょうね。どこかに連れて行ったら許さないわよ」
私は睨みつけてやるけど、きょとんと見返してきたり、ふいっと視線を丹桜に戻したり、なんなのこいつら! 私は怖くないってか!
苦笑いしてる火食むが一番可愛い反応とかどういうことよ!
丹桜が胸の上に乗っかってるちみっこいのに手を伸ばす。丹桜、重くないのかな。ねぇ、本当にだいじょうぶなの、これ?
ちみっこいのは丹桜の手を取って、にぎにぎしてる。
むー、かわいいな。こいつら写真撮ると消えるんだっけ。後から見返してにまにま出来ないじゃん。
「って! 丹桜の手! 丹桜の手が!」
ちみっこいのが触れたとこが変な色になってる!
慌てて丹桜を抱き上げて手のひらを確かめる。
丹桜のちっちゃい手に指を突っ込んで擦り指を広げて目を凝らす。
火傷ではなさそう……痣、でもないよね。なんかこれ、どっかで見たような……あれだ。うちの旦那が葡萄農家のとこ行って指を果汁で染めてきた時のだ。
え、じゃ、これ色移りしただけ?
元凶のちみっこいのを見たらなんも悪い事してないけどって雰囲気ですまし顔してる。
こやつ、私をからかってるんじゃないでしょうね。
って! いきなり丹桜の上に移動してきた!
しかも六人揃って来るんじゃないって! 狭いでしょ!
やっぱり重くはないんだ。私の腕に掛かる負担は丹桜の一人分と変わんない。
でも、熱いし冷たいし、痛いし痺れるし、これ丹桜は平気なの?
さっきから笑ってばっかりで泣かないから丹桜には感じられないのか? なんかあったらすぐ泣くもんね。
なんて悩んでいる私の目の前で。
ちみっこいのが丹桜の手にまた指を絡ませて、しゅるりと消えた。
「は? え、ちょ、まっ」
今消えたけど、ねぇ、丹桜の中に消えて行かなかった!?
うちの子の中に入っていったよね! 見てたぞ、私は!
驚愕する私の目の前に今度は火食むが移動してして、ぺこりと頭を下げた。
いや、あんたに謝られても、とか思っていたら今度は火食むが丹桜の手を握って、消えた。
お前もか!
私が制止する間もなく、ちみっこいのは次々と丹桜の手を取って消えていった。
気づけば私と腕の中の丹桜だけが部屋に残されてた。
「えええええ。これ、どうすればいいの……え、丹桜、平気? 笑ってるけど、平気なの?」
丹桜ってば、あんなことがあったのに、きゃっきゃっと楽しそうに手足を揺らしてる。
ああ、こんなに手を動かしてるの、初めてかもしれない。
もしかして自分に手があるのに気づいたってやつなのかな。
って、ちがう。成長記録は後でちゃんと残すけど今はそうじゃない。
丹桜の額に手を当てる。熱はない。だいじょうぶ、火食んでないね。
丹桜の手の中に人差し指を差し込む。冷たくない。指し凄んでもない。
後は何がいたんだ、あのちみっこいの。色移りさせてきたのは、
丹桜の手のひらは……良かった、さっきの葡萄の色移りみたいなのは落ちてる。元通り、丹桜の白い手だ。
えっと……あれ、これってば、あれね、
じゃ、他の三つは確か……
本人じゃないとわかんないやつじゃん! 誰だよ、指し子姫は周りに影響を与えるって言ったの! 私が丹桜を触って確かめても、わかんないじゃん!
ああ、だめだ。私だけじゃ、丹桜になにかあるのかどうかも分からない。
心配する私をよそに丹桜は無邪気に笑ってる。笑ってるなら、平気だって、楽観してもいいのかな。
取りあえず旦那にメールしよう。いくらあの人でもこんなの分からないと思うけど、ちゃんと伝えなきゃ。
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