第25話 放課後の部室棟で⑪

 俺は再びテレビ画面に視線を向ける。

 映像はまだ終わっていなかった。物語はいよいよクライマックスに差し掛かっているらしく、諍い合っていた登場人物の学生たちは紆余曲折のドラマを経て、互いに和解に向かっているようだった。

 その話の内容自体は、この際なんだっていい。

 なぜ。どうしてこんな映像が存在する。

 映画部の話が閼伽野谷が今朝思いついた話で、この部屋が映画部の部室でもなんでもないというのなら、この映像は——過去の映画部の作品としか思えないこの映像はいったいなんだというのか。この映像はいつ誰が作ったもので、ここに映っている生徒たちは何者なのか。


 そして、よく見ると、テレビの傍らの機器にDVDがセットされていることに気づく。機器はコードを介してテレビ本体に接続されており、画面の映像はそのDVDを再生しているということらしい。少なくとも記録媒体のない映像がひとりでに画面に映し出されているというわけではなさそうだ。

 だとしても、そのDVDはいつ、どのタイミングでセットされたものなのか。この部屋は閼伽野谷が鍵を持ってくるまでずっと施錠されていた。誰かがこっそりDVDを入れているような時間はなかったはずだ。

 いや、俺たちがここに来るよりも前に、あらかじめ準備を済ませておけばあるいは可能かもしれないが、それでもやはりどういう理由でそんなことを——、


「——何か正当な理由が必要ですか?」


 もはや聞き慣れたフレーズが、背後から響く。振り返ると、佐橋がこちらにハンディカメラを向けて立っている。カメラのレンズがまっすぐに俺をとらえていた。

「佐橋、お前……」

「わかりますよ、先輩」

「なんだよ。お前に何がわかるって……」

「わかりますよ。この映像がいったい何なのか、先輩はそれを考えているのですよね」

 俺の胸中を見透かしたかのように佐橋は言う。


「当然、気になりますよね。この映像を撮ったのは誰なのか。この映像に出演しているのは本当にこの学校の生徒なのか。いつどこで撮影されて、いつからこの部屋にあるのか……」

「……うん。まあ、そういうことなんだけども」

「わかりますよ。この映像は確かに不自然です。では、このように考えてみてはどうでしょう」佐橋が俺に詰め寄る。「先輩たちが今日の放課後この部屋に来ることを予見していた何者かがいた。そして、その何者かがこの映像を事前に仕込んでいたとしたら……どうですか。そういう可能性もありますよね」

「それは……そういうこともあるかもしれないな」

「そして先輩は次にこのように考えるはずです。そんなことができるのは自分の行動をある程度把握している人物ではないか。それはこの学校で自分の近くにいる人物ではないか……そして、それは他でもない、この私、佐橋咲である可能性が高いのではないか——と、先輩はそのように疑っているのではないでしょうか?」

「い、いや。さすがにそこまでは——」

 そこまでは思っていなかった。しかし、このまま考え続けていれば、その考えに行き着くのは時間の問題だっただろう。

 だが、それでは——、


「では、他にどのように正当な理由があると?」佐橋がまた少し詰め寄る。「この部屋もこの映像も、すべて私が手配してたもので、知らず知らずのうちに先輩はここに来るように誘導されていた——そう考えれば、万事辻褄が合うのではないでしょうか」

「いや……。それは、そうかもだけど」

「ですよね? なんなら、私と閼伽野谷先輩がもともとグルだったということにしてしまえば、より整合性が取れます」

「グルって……」

 俺は部屋の外に視線をやる。閼伽野谷はまだ地べたにしゃがみ込んだままぼうっとしている。佐橋と閼伽野谷がグルだったというのなら、閼伽野谷の、あの憔悴した姿もわざとやっているというのだろうか……? 俺には到底そうは思えなかった。

「手順としてはこうです。まず最初に、私が裏山で儀式の痕跡を発見するように漆野先輩を誘導します。次に翌日の朝、協力者の閼伽野谷先輩が漆野先輩に話しかけて、この部室に来るように案内します。最後に放課後、私がここで前もって用意しておいた映像を見せれば……ほら、何もかも辻褄が合うでしょう?」

 佐橋は畳みかけるように語る。

 その顔が一瞬、にぃっと笑ったように見えた。

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