第23話 放課後の部室棟で⑨
「いや、ホントになんなんだ……?」
俺は困惑を隠せなかった。
これが映画であることはわかる。が、それ以外のことは何もわからない。内容も特別面白いものではないが、あえて非難するほどひどい出来映えでもない。むしろ学生が制作したにしてはよくできているほうだろう。
しかし、この映像を見て、いったいどういう感想を持てばいいというのか。
すると、
「ここは映画部の部室だったんですよね? それなら、自主制作映画の一本や二本、残っていてもおかしくはないのではないでしょうか?」
佐橋が何でもないことのように答える。
それはそうかもしれない。
だが、これは間違っても儀式の映像などではない。ましてや、直前に閼伽野谷が語っていた話とは似ても似つかない。佐橋はこれを閼伽野谷に見せてどうするつもりなのか。俺には皆目見当がつかなかったのだが、そのときそれまで静かに座っていた閼伽野谷が急に勢いよく立ち上がった。何だろうと思って見ると、そこには顔面蒼白になって直立する閼伽野谷の姿があった。
「なんだ閼伽野谷。どうしたんだ?」
「…………違う」
「え?」
違う。そう一言呟いた閼伽野谷の表情はまるで何かひどく恐ろしいものを見たかのように強張っており、心なしか手足も小刻みに震えているようだった。
——なんだ?
この映画のような、何とも言えない映像を突然見せられて混乱するのはわかる。
しかし、映像の内容自体は何の変哲もない学生の自主制作映画だ。何をそんなに恐れることがあるんだ?
「閼伽野谷……? 違うって何のことだよ?」
俺は怪訝に思って閼伽野谷に問いかける。
すると、俺の声が聞こえているのかいないのか、閼伽野谷は身を震わせながらじっと画面に見入っていたのだが、
「な、なんで……」
当惑の言葉とともにその場を一歩後ずさる。
「おい、閼伽野谷? 大丈夫か?」
「なんで……なんでこんな映像が……」
かすれかけた声でそんな言葉を繰り返す閼伽野谷の姿は、まるで恐怖に怯える小さな子供のようだった。
「閼伽野谷? なんでって、これは映画部が作った映画じゃないのか?」
「映画部が——ははっ、そうだよな、やっぱそう見えるよな……」
「そうだよ。映画部は真面目に作品を作ってたって話だったじゃないか。その作品が部室に残ってるのがそんなにおかしいのか?」
「そりゃ……、そりゃあ、おかしいさ……」
閼伽野谷は半笑いを浮かべて言う。
「……だって、……だって、ここが映画部の部室だったってのは、全部、俺が今朝思いついた話なんだからよ……!」
「えっ!?」
閼伽野谷は身の震えを抑えて、今度は佐橋のほうを向く。
「そうだ! この学校に映画部なんてもともとなかったんだ! だから、映画部の自主制作映画の映像なんてもんがここに残ってるわけがない! なあ、これはいったいどういうことなんだよ!」
強い口振りで訴える閼伽野谷だったが、佐橋は眉ひとつ動かしていない。
それどころか、激昂寸前の閼伽野谷を手元のカメラで撮影している。
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