第7話 訪問者

 桜と祖父が母屋に戻ると、広い庭の片隅に大きくて黒光りするセダンタイプの車が止まっていた。


「なんだろ? 誰が来たのかな?」


 桜がポカンとして黒い車を眺めている横で、祖父が苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた。


「家の中に入ろう。桜。お前は自分の部屋に行っていなさい」

「……え?」


(いつものじーちゃんじゃない)


 殺気すら感じさせる祖父のただならぬ様子に、桜は戸惑いながらもコクリと頷いた。

 家の中へと入り、桜が靴を脱いでいると応接間から父がヒョイと顔を覗かせた。


「桜。ちょっと来なさい」

「え?」

「桜は会わせんぞ」


 祖父はキッと怖い表情で桜の父を見た。

 だがあおいが動じる様子はなく、静かに言う。


「お義父さん。これは桜の問題です。本人にも同席させます」


 きっぱりとあおいに言われた祖父は何か言いたげに口を動かしたが声にはせず、次の瞬間にはキュッと口元を引き結んだ。


(何事? 何が起きてるの?)


 桜は家に上がると、父と祖父の顔をキョロキョロと見比べた。


あおいさん、何をして……あら、桜戻ったのね。あなたに用があるの。応接間に入りなさい」

「はい」


 母の言うことは、鬼頭家では絶対だ。

 渋い顔をする祖父と、妙に腹を決めたような表情の父を従えて、桜は応接間へはいった。


 鬼頭家の応接間は和室で二十畳ほどある。

 襖を隔てた先に四畳ほどの部屋があるため、かなり広い。


 その広い応接間の真ん中にデーンと置かれたデカい机の向こうに客が座っていた。

 

「あなたは……」


 白地に青の朝顔が咲く薄い夏生地の着物。

 その人物に桜は見覚えがあった。


「こんにちは」


 綺麗に座って美しい所作で頭を下げたのは、駅前のロータリーでナンパ男たちを投げ飛ばした和服美人だった。


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