第2話

こういう時って、住んでるアパートは火事で全焼するんだよね?


それをイケメンのスパダリが「うちに来ればいい」って、見たこともない豪華なマンションに連れて行ってくれて、一緒に暮らすうちに溺愛される展開が王道。


……のはずなんだけど……生憎、御曹司の知り合いはいないし、これから出会う予定もない。



築浅のマンションは耐火構造がしっかりしていたらしく、火元となった角部屋はどうにもならなかったけれど、被害はその隣までで、わたしの部屋は何ともないようだった。


消化活動をずっと見ていると、隣に放水された水が私の部屋の方にまでかかっていたから、きっとベランダの床はびしょぬれになっている、と推測されたけれど、それも乾いてしまえばなんてことない。


出火元は3階の角部屋。

そこの住人はこれから大変だと思っていたら、マンションのオーナーの親族だと、野次馬が話しているのが聞こえた。次に被害を被った真下の部屋は空き部屋で、3階建だから、上の部屋はない。

そうなると、一番の被害者は、出火元と私の部屋の間の住人かもしれない。



何時間もかけた点検の結果、放水による漏電もないと確認され、隣の部屋から奥へは入れないようにされたものの、私は普通に自分の部屋へ戻ることが出来た。


玄関の鍵を開け、部屋の明かりをつけて見渡したけれど、特にこれといって変わった点はない。

ベランダの鍵を開けて下を見ると、想像していた通り床はべちょべちょ。


ざっとベランダを見渡すと、隅っこに小さな黒いものが動いて、ぎょっとした。

でも、よく見るとそれは黒猫だということがわかった。

瞳の色が碧い。

耳はピンと立てているものの、濡れているせいで毛はぴったりと体に張り付いていて、体は小刻みに震えている。



もしかして隣の部屋の猫?

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