第7話 探偵登場
石ノ
2年A組の特徴的な生徒
僕・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・物語の主人公
1
昼ごはん時になって、真野と
僕はコンビニで買ったそれほど美味くないおにぎりと、ぱさぱさのカロリーメイトを、
口の水分を犠牲にして惰性で食べた。食事というよりは栄養補給に近いと思う。日差しが照り付けて汗がぽとぽとと滴った。白いウェアで手を拭くと、ウェアに黒い汚れが付いた。
「次は?」真野がスマートフォンをいじりながら言った。
「多分一番手だよ。M高校の一番手は確か
「あれは確かジュニアだよなぁ……」
「僕もジュニアだよ」僕はおどけて言う。
「知ってるよ。市で準優勝で来たのはお前のおかげだ」
「二人じゃないと勝てないよ」
真野は恨めしそうな顔で言う。
「バックのフォーム変えたん?」真野が言う。
「うん。左手を軽く支えてるだけだけどね」
真野はへえと言ってスマートフォンに顔を落とした。
小澤が僕の所に近づいてきた。
「ちょっといい?」小澤は真野に目配せすると、僕を連れてM高校の校舎裏にそそくさと二人で歩いた。
「なに?」僕は怪訝な顔で言う。近くにはトイレがあり、その渡り廊下は閑散としていて静かだった。
「坂井くん聞いたんだけど、小峰くんが殺されたって本当なの?」
「うん。本当だよ。終業式の日に、体育館の倉庫で見つかった」
「その日、確か坂井くんとあなたの二人は帰って来なかったじゃない?つまり、見つけたのがあなたって事なの?」小澤が訊いた。
「そうだね」
「詳しく教えて」
「うーん。警察がなんていうかだなぁ」
「いいじゃないの。私知りたいの」
僕は少し悩んだ後に、事件のことを言うことにした。五分くらいですべてを話せたと思う。
兎に角、思い出すのが億劫だった。
「それで、今は?」小澤が言う。
「犯人の目星は付いてないそうだ。それに、鍵のコピーが作られていないとすると、どうやって部屋を施錠したかという問題が残るんだよ」
「密室って事なの?」
「いやあ、それは分からないよ」
「でもそうなんでしょ?もしかして、中川たちが関わっているのかしら」
「関わっているとしても、殺人なんて出来ないよ」
「じゃあ、どうしてこうもおかしなことばかり起きるの?」
僕はどうしたものかと思う。思い悩んでからため息をついた。
「私が思うには、小峰くんは五人の秘密を知ってしまったんだと思うの」
「そうだとしたら、F学園の中に犯人が居るという事になるよ。それだけじゃない。クラスの人間に居るかもしれない」
「今の話、本当なのね?」僕と小澤の後ろから声がした。女性の声だった。
しかし、声質は凛としている。はつらつと、という表現が似合うのかもしれない。小澤が後ろを振り向くと、「あ……」と声を出した。
「質問に答えてくれる?今の話は本当なのね?そこのピンク色の男の子」
ピンク色の男の子というのは僕のことであろう。あまりにも高圧的だったので、嫌悪感を抱いた。
「本当です」僕は敵意の目をして女性に言い返した。
「その体育倉庫に、何か変わったものはなかった?」
「変わったもの?」僕は訊き返した。
「何でもいいの」
「そういえば、マットが倒れていてそこに小峰が倒れていましたね。マットは六枚あって、それが二枚に折られているので、分厚さはあります。その一枚が倒れて、そこに横たわっていました」
「姿勢は?仰向け?うつ伏せ?」
「仰向けで、両手を左足に置いていました」
女性はふぅんと唸り、右上を見つめた。
「ナイフはどこに刺さっていたの?」女性が訊く。
「心臓と胃の間らへんだと思います」
「柄の部分まで刺さっていた?それとも、先端だけ?」
「柄の部分まで深く」僕は半ば尋問をされているような気分で言い返した。
「それじゃあ、出血は少なかったんじゃない?傷は一か所?」
「はい」
「荒らされた形跡は?」
「ありませんね」
女性の質問は絶えない。僕は面食らっていた。白のテニスウェアの中に来ている、黒い下着が透けていた。それをあまり見ないようにして、目線を下げながら質問を待った。どうして質問されたいのか、分からなかった。
「対面で刺され、尚且つ体育倉庫で殺害されたという事は、面識のある人物ね。それに、そんな時間に呼び出されておいそれと向かっていくというのは、探偵小説にも出てこない、間抜けなこと」
「顔見知りに殺害されたと、そう仰りたいんですか」
「そうよ。多分、退学になった五人と関係しているんでしょうね」
女性はいかにも感慨深いと言わんばかりの表情で首を縦に振った。
「中川たちの事件を知ってるんですか?」
「知ってるよ。少女に暴行を加えたんでしょう?」
僕は頭が真っ白になった。警察も教師も教えてくれなかったことを、どうしてこうも簡単に言うのだろうか。そもそも、この人物は誰なのだ?
「暴行を?」僕は訊いた。小澤は目をぱちりとさせて聞いている。
「森林公園で起きた暴行事件知らないの?三週間も経たないくらいのことかしら。公園で遊んでいた少女が、高校生の襲われて怪我をしたそうなの。それに、性的暴行も与えたそうで、高校側も協議をして退学させることにしたそうよ。なんだ、知らなかったの?」
「知りません」
「そうなの。だから、F学園から居なくなったわけ。その事件と、小峰さんの殺害事件が関係しているとしたら、複雑な事情があるのかもしれないわね。私が思うに、いじめられていた生徒が、恨みを持って殺害したんじゃないかと思うの。でもそうなると、五人との関係性は希薄になる。どうしたものかしら」
女性はうーんと唸る。
「あの、あなたは?」
「あれ、
「大学生って事ですか?」
「そう。二十一歳」
「で、お名前は?」
「私は石ノ
2
「教育実習生の方が、どうして色々とご存じなんですか?普通、そういうものはもっと秘密のはずじゃあ?」小澤が発言する。
「別に、少し調べればこんなこと分かるわよ。それよりも、この後二人とも空いてる?体育倉庫に行ってみましょうよ」
「いいですけど……、警察が居るかもしれませんよ」
「そしたら、取る物があるとか適当な事言って入れて貰えばいいでしょう」
「そうか……」僕は合点した。「そろそろ、試合なので戻ります」
「あなた、フォアハンドの時、グリップが滑っているでしょう?打点があってないと思う。気をつけたほうがいいわ」
「石ノ森さん、どうも」
僕はその場からそそくさと歩いて立ち去った。後には、後味の悪い感情だけが残っていた。
試合は合計で四回行った。二回勝ち、二回負けた。一番手にはもちろん(県大会でベストエイトに入賞したペアだ)負けたが、一ゲームは取ることが出来た。真野は苦いものでも噛んだような顔でジャグの水をただ押し黙って飲んだ。部員は三十二名居る。今日の参加者は二十八名だった。そのうち男子が十二名であり、六ペア作ることが出来る。団体戦が二週間後に控えていて、僕はその二番手の後衛で出場する予定だった。トーナメント表が石ノ森から配られた。
そのトーナメント表には、学校名と、オーダーの生徒の名前が印字されていた。僕は一瞬、息をすることを忘れた。F学園の対戦相手の学校は、あまり戦ったことのない学校だった。しかし、名前の欄に見覚えのある生徒がいた。僕は元々、三番手の後衛だった。すなわち、僕の前にもう一人後衛がいたのである。名前は
帰り道、電車の方向が同じ小澤と真野と帰った。その隣には足を組んでスマートフォンをいじっている石ノ森が居た。
石ノ森はの僕の顔を一瞥すると、「疲れた?」と質問した。
「そりゃあ疲れますよ」
「それで、その秋葉くんも、居なくなった生徒の一人なのよね……?」
「そうです。どこにいるのかは分かりませんでしたけど、まさかR高校とは思いませんでした」
「じゃあ、」石ノ森はにっこりと微笑んだ。「事情を訊けるじゃない」
「順当にいけば、ですけどね」
「そりゃ行くわよ」石ノ森が言う。
小澤はうーんと唸って腕を組んだ。「でもさ、どうしてR高校なら引っ越す必要はないと思うんだけど。だって、一時間半もあれば着くでしょう?それなら、どうして引っ越したの?」
「あいつマンションだろ」と、真野。
「そうだけど、そこまでするかな」
石ノ森はまた発言する。「さっきの話の続きをしようか?」
僕はお願いしますと一言告げた。
「あの日、五人は森林公園で花火をしていたそうなの。一八時半くらいのことだと思うわ。広場というより、池の近くにあるベンチでやっていたと、証言があるわ。そこに、一人の女の子が現れた。年齢は七歳。名前は分からない。その女の子は、一緒に遊びたかったんだと思う。でも、彼らはそれを拒んだ。あろうことか、蹴ったり殴ったりしたそう」
小澤が嫌そうな顔をした。
「そして、性的暴行を加えてその場を去った。これが真相よ」すぅっと息を吸うと、また続けた。「未成年だから立件はされないけど、少年審判を経て保護観察処分という事になった。しかし、それからあとの動向は分からない。どうして秋葉くんが試合に出ているのかしら」
「そんな……」小澤が言った。
「5人全員が事件の当事者ではないとしたら?」僕は訊いた。
「ああ、なるほどね……。つまり、五人のうち何人かがその事件の張本人だった。だから、人によってばらけるという事か」
「そうです。二人が事件の当事者で、もう三人がお手洗いや他の用事でその場を離れていたとしたら、人によって処遇が分かれるのは無理ないことですからね」
「冴えてる」
「お嬢様みたいな話し方はやめたんですか?」僕は石ノ森に訊いた。
「忘れてないわよ」
「それ、作ってたんですね」
「うるさい」
電車はガタゴトと喧しい音を立てながら駅に付いた。そこで真野と小澤が降りる。
そして僕と石ノ森の二人になった。
「あの」電車の外を見ながら呟いた。沢山の山々が、目の前にパノラマみたいに広がった。
「来週、佐藤と会うんです。事情を訊こうと思って。それで、僕たちじゃあ警戒されるかもしれません。もしよかった石ノ森さんが会ってくれないかと思うんですけどいかがですか」
「どこで会うの?」
「自由が丘です」
「え!私の住んでる町じゃん」
「お嬢様言葉は?」
「近いからいけるかもしれないわね」
「はあ……」
「いつ?」
「土曜なんですけど」
「そう、分かったわ。今メッセージのアカウント教えるから、あとで詳細を教えて」
「分かりました」僕が電車を降りると、「私はまだまだかかるから」と言った石ノ森の声が脳内で反芻した。
僕の中で、何かを見つけたような気持ちが彷彿とした。
続く→→→
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