第4章 絶世の美女がアホすぎて

0019 水の都ミレナビュレイユ

 クリスやジャックは空を飛べるのにも関わらず、ゆらりゆらりと馬車に揺られている。


 魔術師トーナメントが終わってから少しして、旅行に出かけたいというランランの言葉によって実現した1週間の休暇。


 今回の目的地は水の都ミレナビュレイユ。

 簡単に言ってしまえば、イタリアのヴェネツィアみたいな街だ。


 水の都ミレナビュレイユはボケリア王国の中にある街だが、王都からは一般的な馬車で10時間ほどかかる距離にある。


 今回は休暇。

 ということで、クリスとジャックは力を使わない。完全に一般人と変わらない旅行をたまにはしてみたい、ってことらしい。


 王都最強の勇者パーティ、イレギュラーズの移動ということで、王国から用意された馬車は最高級のものだ。

 3両編成になっていて、車内は冷房がしっかりと効いている。もちろん、冷却魔術の応用だ。


 オレは1番後ろの車両にガールズと3人で乗っていた。別にハーレムだとかは思ってない。


 ランランは長距離移動の疲れですっかり丸くなって眠っている。

 ベッドとして使っているのがオレの膝の上であることも忘れてはいけない。可愛いけど、これだとオレが余計に疲れてしまう。


「ランランちゃんの寝台ベッド役、わたしが変わろうか?」


「……頼んだ」


 シエナと座席の場所を交換する。


 ランランの眠りはあり得ないほど深いので、ちょっとした揺れや変化では起きない。


「ランランちゃん、可愛いよね」


「まあな」


「アキラ君はランランちゃんのこと、どう思ってるの?」


「どうって言われても……ペット的な?」


 オレの素直すぎる答えに、クスクスと笑うシエナ。


 仲間のことペットとか思ってるなんて最低!って言われなくてよかった。まあ、オレとランランが飼い主と飼い猫の関係であることくらい、みんなわかってる。


「アキラ君、もしよければ……2日目はわたしとデートに……行きませんか?」


「え……」


 まさかのデートのお誘い。


 あまりに唐突すぎて、どう答えればいいのかわからない。でも、ここはすぐに答えないと、相手も困るだろう。

 デートといっても2人で親睦を深めようって意味で、恋愛的な意味はないのかもしれないので、もしかして好かれてるんじゃね?と勘違いするわけにはいかない。


「いいよ。2日目は暇だし……ていうか、1週間全部暇なんだけど」


「アキラ君は面白いね」


「別に面白いこと言ったつもりないけど」


 何が面白いのやら。

 とりあえず、絶世の美女シエナが笑っているので、何も怖いものはない。




 水の都に着くと、まずはランランを眠りから起こした。

 シエナの服に大量のよだれを垂らしていたので、それを洗うのにも苦労した。


 いろいろあって、夕方。


 朝方に王都を出て、ようやく辿り着いたこの安息の地。1週間ゆっくりさせてもらおうではないか!


「こんな長い移動は久しぶりだから、つい反動で空を飛びたくなってしまうね」


「どんな反動だよ」


 クリスがわけのわからないことを言ってきた。

 少なくとも、飛行能力を持たない俺にはわからない。


 長距離移動で疲れ気味なクリスとは違い、ジャックは乗り込んだ時とまったく変わらない様子。また何かチート魔術でも使ったのかな。


「調子よさそうだな」


「時間感覚を圧縮する魔術を使っていた。10時間も俺の体感では5分だ」


「圧縮しすぎだろ。何が楽しいんだ?」


「移動の時間ほど無駄なものはない」


「その圧縮魔術ほど無駄な魔術はないだろ」


 さすがはオレ、上手いことを言った。


 馬車の運転手に別れを告げ、夕日に照らされる水の都観光を始める。


 街は中心にあるネプティーナ神殿から水路が張り巡らされていて、ゴンドラで優雅に移動する住民たちをたくさん見かけた。

 いつかヴェネツィアに行ってみたいと思っていたから、ちょうどよかったのかもしれない。明日のデートで乗ってみよう。


「せっかくだし、まずは神殿に向かおう」


 クリスの提案で、無計画ノープラン旅行の最初の行動が決まる。


 ネプティーナ神殿は小規模な神殿ではあるものの、細かいところの装飾が丁寧で職人の真心を感じる建造物だった。カップルがよく神殿を訪れ、今後も上手くいくようにと祈っているとか。


 ここは水の都でありながら、恋の街でもある。

 ということから、シエナのデート・・・という言葉選びを考えると……もしかして期待しちゃってもいいのか。


『きゃー! クリスさん、かっこいい!』


『え、本物!? あのオールバック・エルフが水の都ここに!?』


 クリスは相変わらず現地住民からも大人気だ。特に女性から。


 ここまでの人気と知名度はむしろいろいろと大変そうだ。プライベートがないというか、気を抜けないというか。


 我らの主導者リーダーが女性ファンの対応をしている間、人気にんきのないオレたち4人は神殿の中で女神像を眺めていた。


 ここで祀られている女神は水の女神ネプティーナ。


 この土地が水に恵まれているのは、ネプティーナが大昔に街を聖水で浄化したからだ、という伝承が残っているらしい。この世界において、神は伝説とかじゃなく本物リアルだ。


 神は人間に憑依し、多くの富をもたらしてきた。

 オレがこうして異世界にやってきたのも、とある女神・・のおかげだったりする。


「――ッ」


 何者かの視線を感じて、振り返る。


 そこには誰もいなかった。

 神殿にいる間、奇妙な視線を何度も感じたけど、結局は気のせいに過ぎなかった。




 その夜。

 リーズナブルな宿屋で寝ている時だった。


 夢に例の女神、ネプティーナが出てきた。


「水の都ミレナビュレイユにようこそお越しくださいました、アキラ様」


「女神なのに丁寧すぎる対応ですね」


 所詮はただの夢。

 ネプティーナは水色の髪に水色の目と、いかにも水の女神って感じの見た目をしている。


 驚くことに、オレにはこれが夢だとはっきりわかっていた。

 いつもは夢なのか現実なのかわからないような、曖昧な世界を彷徨さまよっている感じなのに、不思議だ。


 でも、たまにはそんな夢もある。


「アキラ様、わたくしとイチャイチャしませんか?」


「急に?」


 もしかして、これはごくまれに見る、エロい夢だろうか。


 記憶にある限りだと、この世界に来てから一度も、そういった類の夢は見ていない。

 だって、魔法は実在するし、もしかしたら明日戦いで殺されるかもしれないっていう危機感もあるし、毎日が楽しくてしかたないし。


 ネプティーナの容姿はシエナやローレライに匹敵するくらいに優れている。

 そりゃあ女神なんだからそれくらい美人であってもらわないと困るよな。


「イレギュラーズの皆様が街にいらっしゃったことは、神界にも届くほどの膨大な魔力で感じ取っておりました。しかし、神殿の中を歩くアキラ様を感じた瞬間、体の奥底がじわっと熱くなるのを感じたのです」


「そうすか」


「一目惚れのようなものですかね。あなたは他とは違う、別の世界の雰囲気オーラを放っています」


「それはまあ、実際そうですし」


「やっぱり! アキラ様は異世界からの転生者なのですね!」


 なんでそんなに嬉しそうなんだ?


「クリスが神殿に入ってたら、多分クリスに惚れてたと思いますよ」


「それはあり得ません。わたくしはエルフよりヒューマンが好みですので」


 エルフの耳が苦手なのかな。


「それで、何の用ですか?」


「それはですね、アキラ様といいことをしたいなーと思いまして」


「いいこと?」


「アレですよ、アレ。さすがにわかってくださいますよね?」


「あーなるほど」


「はい」


「遠慮しときます」


 オレは女神からの誘いを断る。

 これは夢なんだし、何をしてもいいのかもしれない。でもなぜか、これが正しい判断だと確信していた。


 そして、こうも確信していた。


 ――この女神はオレの夢の中の産物じゃない。オレの夢を通して、現実・・に介入しようとしてきている。


 そう思ったから、オレは忍術的な超能力で強引に目を覚ました。

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