第39話 大志を抱け


『若人よ、大志を抱け。』

なんて言われても、僕にはわからない。


大志ってなに?

若人ってだれ?

それは本当に僕に言ってる?


わからないから無視し続けた。

いつかわかるようになる日を漠然と待ちながら、どんよりとした曇り空を見上げていた。


いつしかポツポツと雨が降り出して、何も見えなくなった。

見えなきゃ困るから、下を向いた。

そのまま歩くことにした。


いつのまにか、大人になっていた。


わたしは思う。

都会の駅の大きな広告に、どこかの国の気球がたくさん浮かぶ風景を見たあのときから、きっと世界の時間は止まってしまったのだ。


わたしだけ取り残されるなんて、そんな寂しいこと言わないでくれ。


あの日抱いた夢が叶わないと知ったのは、たぶん、その翌日だ。いつまでも長々と報われない希望を引きずるなんてミジメだ。


大人になるとは、そういうことなんだ。



わかるかい、だからわたしは君に言いたい。


「夢を描け、若人よ。

それの無意味さを知ったとき、君は真の大人になれるのだから」

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