初めての部活

運動部は顔合わせのミーティングがあるようだが、写真部は通常活動。僕は4階建ての校舎の4階の一番奥という不便な場所にある理科室に、この2週間と少しの期間で友達と呼べるほどになった同じクラスの…そう、青葉大輝あおばたいきと共に向かう。

写真部は部員が比較的少なく、僕を合わせて1年生が4人、2年生が3人、3年生が5人となっている。聞いたところによると、運動部ではないため3年生は最後のコンクールである文化祭の後の秋のコンクールまで部活があるようだ。そのため、半年以上3年生を含めたこの12人で活動する。


とはいっても、まだ大輝以外の人は知らないわけで、不安な気持ちで理科室へ入る。

理科室に入った瞬間、可愛らしい茶髪が目に入った。じっくり見ていると目が合った。


「あ、見学で私のところに来てくれた子だよね。入ってくれたんだ、ありがとう!」

「あ…こんにちは…!」


僕のことを覚えてくれていたという事実と、先輩から話しかけてくれたことに胸が高鳴る。

先輩は僕を見てつづけた。


「確か…詳しくは入部したらって言ってたよね。」

「あ、はい!」


きっと返事をするたびにぎこちなくておかしな声が出ていると思う。

しかし、この緊張に打ち勝つことはできないのだ。


「ごめん、それ、特に考えずに言っちゃったから、ないんだよね。結局、写真ってスポーツとかと同じでやりながら覚えていくものだと思うし。」

「ああ、そうなんですか。」

「なんか、ずっと嘘ついたみたいになってたから謝りたくって。」

「じゃあ…」


そう、今日聞くと決めたのだ。

意を決してつづける。


「先輩のお名前を教えてください」

「え?あれ、言ってなかったっけ。」


先輩は一瞬驚いて、またいつもの優しい顔に戻って言った。


桜庭綾さくらばあやだよ。」

「先輩にあってますね、名前。」

「お世辞はいいからさ。」

「お世辞じゃないですって。」

「まあ、いいや。それでさ、藍川橙弥あいかわとうやくん。君のこと、どうやって呼べばいい?」

「なんで僕の名前、知ってるんですか!?」


僕が驚いているのと裏腹に、綾先輩は当然のような顔をする。

そんな僕の顔を見て少し笑いながら先輩は続ける。


「だって、君が持ってる教科書の裏側に書いてあったんだもん。」


なんだ、だからか、と思いながらも、僕のそんな細かいところまで見てくれていたことが嬉しかった。新入生をじっくり見るのは、先輩にとっては普通のことなのかもしれないが。

名前を呼ばれたことに少し恥ずかしがりながら、僕は笑って続ける。


「なんだ、そんなところだったんですね。僕のことは自由に呼んでいただければ大丈夫なので…」

「んー…じゃあ、あいとうくんだね。」

「あいとう…?」

「ほら、「あいかわとうや」を略すとあいとうだし、それに、自分の気に入っている刀みたいでかっこいいでしょ?」


先輩のネーミングセンスに驚きながらも、僕は続ける。


「なんか、あだ名なんてつけてくれてありがとうございます。」

「大したことじゃないよ。よろしくね、あいとうくん。今日から君は私の愛刀だー、なんてね。」


可愛らしく笑う先輩を見て心が明るくなる。それと同時に、この一瞬でこんなにも仲良くなれたという嬉しさと恥ずかしさがこみあげてくるから不思議な気分だ。

最後の、「私の愛刀」というのが一番恥ずかしくてどうにかなってしまいそうだったのだが。


1年生は初めは学校から1人1人に配られるタブレットで写真を撮り、それが慣れてきたらデジタルカメラやフィルムカメラなどで撮るそうだ。2年生でフィルムカメラを使っているのは綾先輩だけなので、使ってみたいと思った。

今日はまず学校周辺の景色を先輩と共にタブレットで撮るそうだ。

1年生は4人、2、3年生は合わせて8人であるため、1人の1年生につき2人の先輩がついて教えてもらえる。

あわよくば綾先輩から教えてもらいたいなんて思うが、そんなことは叶うわけもなかった。綾先輩が大輝に教えていたのが少し気に食わなかったが、いちいち妬む暇もない。仕方のないことだ。

僕は、3年生の若森涼華わかもりすずか先輩と2年生の市川穂希いちかわほまれ先輩に教えてもらうことになった。

涼華先輩は少し気が弱そうな雰囲気ではあったが、しっかりアドバイスをくれてやさしい女子の先輩だ。ショートカットで内巻きの黒髪が特徴的だ。

穂希先輩は頼もしいというイメージの強い男子の先輩。背が高くて優しいが、突然僕を笑わせてくるから面白い先輩だ。

二人の先輩は僕が地面に咲いている可愛らしいタンポポの写真を撮ろうとしているところにアドバイスをくれた。


「ああ、えっと、それだと地面ばっかり写っちゃって臨場感がないから、もう少し空を写してもいいかも。」

「あとこれは俺の考えになるかもしれないけど、もう少し光が差し込んでいるのを写した方が綺麗だから、タブレットの影が入らないようにもう少し遠ざけてもいいと思う。」

「ああでもこうすると光が入りすぎるのか。穂希くんはどう思う?」

「えぇ、でもこのくらいの光量なら大丈夫なんじゃないですか?」


この二人は写真が好きなのだな、と会話を聞いて思った。

そして、部活の活動である写真を通してつながっている。そう感じた。

きっと、それは綾先輩も同じ。

ここにいる人にとって、写真は一つのコミュニケーションで、自分の気持ちを伝えたり人と人を繋いだりするツールなのだと思う。

僕の今のここにいる部員全員とのつながりは「部活」によるものだけど、いつかは先輩と同じように「写真」で繋がりたいと思った。


「じゃあ、橙弥くん、これで大丈夫だと思うよ。」


涼華先輩のその言葉に合わせてシャッターボタンを押す。

カシャ。

写真部に入って僕が初めて撮った写真は、道に可愛らしく咲くたんぽぽの写真だった。

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