先輩との、その1年の差が無くなればいいのに。
ねお
出会い
「バドミントン部入りませんかー?初心者でも大歓迎です!」
「軽音楽部、楽器未経験でも大丈夫です!」
入学式のあと、新入生の下校時刻に合わせて行われる部活勧誘は先輩にとっての1年生の争奪戦で、思った以上に激しかった。
僕にはもともと入りたい部活なんてなかったし、成り行きで入れればよいなどと思っていた。
そんなとき、声をかけられた部活に少しだけ入りたいと思った。
「写真部、入りませんか?」
決して激しくはない、穏やかで控えめな雰囲気を纏った先輩に惹かれた。写真に興味はなかったけれど、先輩のおかげで僕は少し興味を持った。
人は知ってしまったことをもっと深く知りたいと思うようだ。僕は家に帰り、さっそく写真について調べた。撮るだけではなく、現像などの作業が思った以上に興味深くて驚いた。難しそうだけれど、知ってしまった以上できるようになりたいと思った。
翌朝、中学校よりも遠くなった高校に登校するために少しだけ早起きをした。中学生のころに憧れていた電車通学に胸を躍らせながら家を出る。中学校からの友達である四宮海斗も電車通学と前に話していたため会えないかと期待していたが、そんなことはなく、僕は割と早い時間に登校した。
そこからは、1日中学力テストを受けた後に明日からの日程について話されただけだった。先生が明日から部活見学が始まると言っていたので、僕は写真部に行くと決めた。
帰りは、今日の朝会うことのできなかった海斗と一緒に帰った。
「部活、何部入るの?」
「今のところは吹奏楽部かなって思ってる。中学からやってるし。逆にお前は?」
「僕は…写真部かな」
「え、全然写真のイメージ無かった。」
「入りたい部活ないし、なんとなく。」
僕みたいに成り行きで決めるのではなく、ちゃんとした理由を持って決められるのはすごいと思う。そんなの当たり前ではないかと大人は言うが、僕には大変難しいことだ。
「というかさ、今日の国語の問題、ヤバくなかった?」
「あ、それ僕も思った。小説でしょ?」
国語の問題で出題されたのは、青春真っただ中の主人公と主人公が思いを寄せている相手との淡いラブストーリー。高校に進学したら、中学生のころよりも恋愛に興味がわくわけで、そのような内容の小説に興味を持ち始めた僕らはとても驚いた。
「なんか、こういうの言うのっておかしいかもしれないけど、ああいう青春っぽい恋愛って本当にあんのかな?」
僕はこの話題が恥ずかしくて、急いで話題を変えた。
海斗には「恥ずかしいからって話逸らすなよー」なんて言われたけれど気にしない。
翌日の放課後、早速写真部へ赴いた。
あのときはあんなに部活勧誘の先輩に惹かれたけれど、もう見た目も声も忘れてしまった。しかし、会ったらきっと雰囲気でわかると確信できた。
活動教室である理科室へ足を踏み入れると、奥の方でアルバムの整理をしている少し髪が茶色で優しそうな雰囲気を纏っている先輩が目に入った。
部活勧誘の先輩だ。あの時は入学式の緊張と周りの忙しなさで雰囲気しか感じ取ることができなかったけれど、こうして見てみると顔も整っていて可愛らしい。
また会えた喜びで僕は気持ちが昂り、その先輩の元へ取るものも取りあえず駆けつけた。
「すみません…!」
「こんにちは、部活見学にきてくれた1年生?」
「は、はい!」
「私に聞いてきたってことは…部活のことについて知りたかったの?」
「あ…えっと…はい」
本当は名前を聞くためだった、なんて死んでも言わないけれど。
僕の言葉を聞いて、その先輩は写真部の活動について説明してくれた。
週に4回の活動で、1年に何度かコンクールがある。基本は学校周辺の写真を撮る。そして、部活に入ればこの先輩と1週間の半分を過ごせる。わかったのはこれだけだ。
「あとは入るときに知っておかないといけないこととかあるかなぁ…」
先輩は少し考えた後に、「あ!」と喜んだような声を出して言った。
「詳しいことは、写真部に入ってくれたら教えるよ?ふふ。」
僕は目の前の先輩の可愛さに圧倒されて何も言えなかった。
その瞬間、いや、入学式の日から思ってはいたが、僕は写真部に入ることを心に決めた。
それから入部届を出したのは2週間後で、部活はその次の日から始まった。それまでの期間、僕は何度も写真部の見学へ行ったが1度も先輩の名前を聞くことはできなかった。
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