第4話 一般的な職場へ
「はじめまして、ギルベルト様のお仕事を手伝うために派遣されてきたライラ・リンハールと申します」
私はこれ以上話がややこしくならないうちに、自分から名乗ることにした。
するとすぐに少年が声を上げた。
「俺は、クルス……仕事を手伝うために派遣……もしかして……王都から来たの?」
「はい」
私が答えると、クルスが遠い目をしながら言った。
「そっか~~最近やけにギルベルトさん、倒れてることが多いから仕事大丈夫かな~~とは思ってたけど、やっぱり大丈夫じゃなかったんだ……」
(倒れていることが多い……か……)
あまり一般的には聞かない単語なのに、本日二度目だ。
思わず真顔で目を細めると時計が鳴った。
「あ、もうこんな時間。じゃあ、ライラさん。ギルベルトさんのことよろしく」
クルスは二階の奥の部屋に入って薪を置いた後に階段を駆け下りて行った。
私はクルスの背中を見送った後にギルベルト様を見ながら言った。
「それでは、私たちも続きをしましょうか」
「そうですね」
そして私たちは書類整理を再開したのだった。
書類を確認していて、ふとギルベルト様の年齢の書かれていた書類を見つけた。
(あれ、これって領主情報更新書類!! 嘘……これ今年の分!! すぐにでも提出しなきゃ……あ、ギルベルト様、26歳か……そんなことより、この書類は本来なら半年前に提出するべき書類。これも重要度が高いわ……)
その時の私は、年齢よりも早く書類を出すことで頭がいっぱいだったのだった。
◇
「す……すごい……!!」
ギルバート様が目を輝かせながらきれいになった執務室を見ていた。
もうすでに、執務室に来た時のような書類の海はない。
あれほど乱雑に置かれていた書類は今や、輝きを放つように書類棚に整然と分類されて並んでいた。
実は、新人の頃はひたすら先輩たちに書類を探してほしいとか、使った資料を片付けてほしいとか、各領主から送られてきた書類に不備がないかの確認をしてほしいと言われる。
何日も……何ケ月も……ひたすら書類を分類し、片付け、書類という書類を見続けた結果……
私は書類の分類・整理のちょっとしたエキスパートに片足を突っ込んでいるほど成長していた。
きれいになった執務室を見ながら、私は政務室のみんなの顔を思い浮かべた。
(みんな……私、やったよ!! これでようやく仕事ができそうです)
脳内のみんなが親指を立てて涙を流している顔が見えた……気がした。
「いや~~こんなに床が見えたのは久しぶりです。ありがとうございます」
私が自分の成長を感じていると、辺境伯のギルバート様は床が見えるという一般的に言えば当たり前のことで、破顔していた。
だが、これで終わったわけではない。
これからが本番だ。
「ギルベルト様、早速お仕事に取り掛かりましょう!!」
私の言葉を聞いてギルベルト様は、はっとしたように言った。
「そうでした。本来の目的は仕事でしたね!!」
ようやく仕事を始めようという時だった。
「うわぁ!! 何があったのこの部屋??」
先ほど薪を運んでいたクルスと、リーゼが部屋にやって来た。
「信じられない!!」
二人はきれいな部屋を見てかなり驚いている。
(きれいな執務室でこんなに驚かれるなんて……)
「すごいだろ!? これでようやく、この部屋で薪を使える!!」
私はギルベルト様の顔を二度見した。
昼間はまだ暖かいので薪はいらないが、朝や夜は冷える。
(え……もしかして今まで……薪使えなかったの?)
凍えながら仕事をするギルベルト様を想像して眩暈がした。
もしかして私は、かなりお手柄だったのかもしれないと思ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます