第11章:告白は、祝福の光の中で

 復帰配信当日。

 私の心臓は、今にも張り裂けそうなくらい、バクバクと音を立てていた。

「大丈夫。葵ならできる」

 隣で、健人さんが私の手をぎゅっと握ってくれる。その温もりが、私に最後の勇気をくれた。


 配信開始のボタンを押す。

 画面には、またたく間にたくさんのリスナーが集まってきてくれた。コメント欄は、心配と応援の言葉で埋め尽くされている。


「みんな、こんばんは。ルナ・セレスです。心配をかけて、本当にごめんなさい」


 私は、用意した台本ではなく、自分の言葉で、正直な気持ちを話し始めた。

 今回の騒動のこと。すごく怖くて、辛くて、一時は辞めようとまで思ったこと。

 でも、ファンのみんなからの温かい言葉や、支えてくれる人の存在があったから、もう一度前を向こうと思えたこと。


「今回の件で、相手の方を責めるのはやめてください。私から伝えたいのは、ただ一つだけです。私を支えてくれたみんなへの、感謝の気持ちです」


 そして、私は深々と頭を下げた。


「これからも、私はここで、みんなと一緒に笑ったり、悩んだりしたい。私の歌で、言葉で、誰か一人でも元気になってくれるなら、私はVTuber『ルナ・セレス』として、活動を続けていきたいです。だから……これからも、よろしくお願いします!」


 言い終わると同時に、コメント欄が、祝福の光で溢れかえった。

 色とりどりのスーパーチャットが、まるで紙吹雪のように画面を舞う。


 《おかえり、ルナ様!》

 《信じてた!》

 《俺たちがついてる!》

 《支えてくれる人ってKニキのことだろ!?》


 温かい言葉の洪水に、私の涙腺はまたしても決壊してしまった。でも、それは悲しい涙じゃなくて、嬉しくて、温かい涙だった。

 配信は、大成功だった。チャンネル登録者数は逆に増え、騒動は完全に鎮火した。


 配信を終え、ヘッドセットを外す。安堵と、達成感で、体中の力が抜けていく。

「……お疲れ様でした。素晴らしい配信でした」

 ずっとそばで見守っていてくれた健人さんが、優しい声で言った。

「健人さんのおかげです。本当に、ありがとうございました」


 私が笑顔で言うと、彼はふっと息を吐いて、真剣な顔で私に向き直った。

 なんだろう。すごく、緊張しているのが伝わってくる。


「佐藤さん。……いや、葵さん」


 初めて、彼が私のことを名前で呼んだ。

 心臓が、ドキッと大きく跳ねる。


「ずっと前から、好きでした」


 彼の声は、少しだけ震えていた。

「最初は、VTuberのルナ・セレスのファンでした。でも、いつの間にか、会社で一生懸命頑張る、不器用だけど真っ直ぐな佐藤葵さんのことも、目で追うようになっていた。あなたの全部が、好きです」


 彼は、私の目をまっすぐに見て、はっきりと言った。


「俺と、付き合ってくれませんか」


 それは、私がずっと聞きたかった言葉だった。

 涙で視界が滲む。でも、今度は最高の笑顔で、私は頷いた。


「……はいっ!」


 私の返事を聞いて、健人さんは心の底から安堵したような表情を浮かべた。そして、そっと私の手を握る。

 彼の大きな手が、私の手を優しく包み込む。

 絡み合った指先から、彼の愛情が、温かい電気が、じんじんと伝わってくる。

 二つの世界で始まった私たちの物語は、今、最高の形で一つになったのだ。

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