第2話 最初のアトラクション
男たちが宝箱に悪態をつきながら、洞窟の奥へと進んでいく。
現在の俺のDPは、リリィの奇襲で得た3ポイントと初期ポイントを合わせて93ポイント。正直、心許ないにもほどがある。
【DPを消費して新たなモンスターを生成しますか? ゴブリン:50 DP、コボルト:70 DP】
ウィンドウは親切に提案してくれるが、そんなものを今生み出したところで、男たちを殺さずに追い返すのは至難の業だ。それに、彼らは俺にとって、もはや「獲物」ではなく「お客様」。できる限り、楽しんで(あるいは絶叫して)帰ってもらわなくてはならない。
(モンスターはダメだ。もっとこう、平和的で、エンターテインメント性のある仕掛け……)
俺の脳裏に、前世で何度も企画書を書いたアトラクションのイメージが浮かぶ。そうだ、アレなら、この地形と少ないDPでも実現可能かもしれない。
俺はDPを消費して、ダンジョンの「地形編集」機能にアクセスした。
【地形編集を開始します。消費DP:1/秒】
脳内に、今いる洞窟の簡易的な3Dマップが展開される。俺は男たちが向かう少し先の通路、その床に意識を集中した。
(ここの床の角度を、ほんの少しだけ……そう、下り坂になるように傾斜させる)
ぐぐぐ、と洞窟全体が微かに震える。男たちも気づいたようだ。
「ん? なんか揺れたか?」
「気のせいだろ。それより、道が下りになってやがる。奥が深そうだな」
よし、食いついた。
俺はさらに、通路の両側の壁を少しずつ内側に湾曲させ、レールのようにしていく。そして、極めつけは床の材質変更だ。ゴツゴツした岩肌から、滑りの良い、磨かれた黒曜石へと変化させる。
【地形編集を終了。消費DP:30】
残るDPは63。
これで準備は整った。
男たちが、俺が細工した緩やかな下り坂に足を踏み入れる。
「なんだか、このへんの床、ツルツルしてねえか?」
「本当だ。おい、気をつけろよ」
一人が足を滑らせ、体勢を崩した。
「うおっ!?」
その瞬間、俺は坂の傾斜を、一気に30度まで引き上げた。
「「「うわあああああああ!?」」」
三人の男たちは、なすすべもなく坂道を滑り落ちていく。それはもはや坂道というより、天然の滑り台だ。俺が壁を湾曲させたことで、彼らはコースアウトすることなく、綺麗に一直線に滑っていく。
【感情『驚愕』『恐怖』を検知。30 DPを獲得しました】
よしよし! DPが回復していくぞ!
しかし、ただの滑り台ではエンターテインメント性が低い。俺は稼いだDPを即座に投資し、コースの途中に小さなコブをいくつか設置した。
「ぎゃっ!」「うおっ!」「尻がァ!」
男たちを乗せた即席のライドは、コブを乗り越えるたびに小さくジャンプし、そのたびに悲鳴とDPが俺のもとへ供給される。素晴らしいキャッシュフローだ。
【感情『興奮』を検知。20 DPを獲得しました】
おや? 一人、楽しんでいるやつがいるな。それでいい、それがいいんだ!
滑り台の終点は、少し開けた広間。俺はそこに、残ったDPと稼いだDPのすべてを注ぎ込み、最後の仕掛けを用意した。
「うわあああああああ!」
猛スピードで滑り落ちてきた男たちは、広間に到達した瞬間、目の前の光景に息を呑んだ。
広場の中心には、ぽつんと一体のスライム。リリィだ。
そして、そのリリィが、俺の指示で淡い光を放っている。ただそれだけ。だが、暗闇の中を猛スピードで滑ってきた直後だからこそ、その幻想的な光景は、男たちの目に強烈なインパクトを与えた。
「な……なんだ、ありゃ……」
「光る……スライム……?」
三人は、呆然と立ち尽くしている。
静寂。そして、先ほど恐怖と興奮で高ぶった感情が、すとんと落ち着いていく。いわゆる「クールダウン」だ。
俺は、すっかり大人しくなった彼らに、最後のプレゼントを贈ることにした。
ダンジョンの壁に、小さな文字を浮かび上がらせる。
【Thank you for playing!】
「……さんきゅー……ふぉー……ぷれ、いんぐ?」
「どういう意味だ?」
「さあな。だが……」
リーダー格の男が、ごしごしと自分の尻をさすりながら言った。
「なんだか、すげえ体験をした気がするぜ……」
【感情『感動』『満足』を検知。50 DPを獲得しました】
やった! 正の感情によるボーナス補正だ! DPが一気に跳ね上がった!
三人は、しばらく呆然としていたが、やがて我に返ると、お互いの顔を見合わせ、気まずそうに洞窟の出口へと向かっていった。出口は、この広間のすぐ脇に、俺がこっそり作っておいた。
彼らがダンジョンから完全に姿を消したのを確認し、俺は安堵のため息を(心の中で)ついた。
リリィが、ぽよんと俺のコアのそばに寄ってくる。
『マスター、すごいです!』
『君のおかげだよ、リリィ。最高の演技だった』
俺はリリィを労いながら、今日の成果を確認する。
現在のDPは166。初期状態から66も増えている。しかも、誰も傷つけていない。これは大成功と言っていいだろう。
だが、課題も多い。
今回のアトラクションは、ほぼアドリブ。再現性も低い。もっと恒久的な設備と、それを運営してくれるスタッフ(モンスター)が必要だ。
(よし、まずはDPを貯めて、もっとちゃんとしたアトラクションを作ろう。そして、従業員を雇うんだ。目指すは、接客スキルを持ったゴブリンの育成だ!)
俺は、ダンジョンランドの輝かしい未来を想像し、新たな決意を固める。
まだお客様は三人のゴロツキだけ。アトラクションは即席の滑り台一つ。
だが、ここから始まるのだ。
俺と、心優しきモンスターたちによる、世界一のテーマパーク作りが。
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