ジェノワーズ編
第1話 白き風の島
ここはアンブロシア国のドゥルセ
緑がとても多く、暖かい気候だが風が強く吹く日が多い。
アンブロシア国は大きな一つの島、その国に属するドゥルセは、アンブロシア島から少し離れた位置に存在する離島。
潮の香りを
風がとても強く吹く日は船が出ないのでドゥルセから出る事も来ることも出来ない、つまりアンブロシア島への道は海路しかない。そんな日がしょっちゅうあるので、
風が強いこの街のシンボルは風車。
トンガリ帽子のようなその姿はとても優雅で可愛らしいが、実際は穀物を磨り潰したりする農作業用なので、見た目よりその業務は地味なモノ。けれどその風車の動力を利用した粉挽きにより出来上がる小麦粉はアンブロシア全土に需要があった。原料はこの島の特産物である小麦「シフォン」
島なので漁業も盛んなのは必然だ。若い世代でも漁師になり、早いうちからお金を稼ぐことができるので、ドゥルセでなりたい職業ランキング上位でもある。
林業においても、質の良い木材となる木「クロカンブッシュ」が群生しているので、建築関係の職人がとても多いのも特徴だ。だが会社が多いわけではなく、組織で形成されており、その名を「ストラクチャー・カンパニー」と呼んだ。仕事の依頼があればそのストラクチャー・カンパニーから職人が選抜されて建設にあたるのだ、それは漁業も林業も同じだった。
クグロフ・ジェノワーズ、30歳 建築家
彼はドゥルセの街で、ストラクチャー・カンパニーに登録している職人。F級からS級までランク分けされて登録されているのだが、その中でもS級ランクなのがクグロフ。当然ランクの違いは所得の違いで、国家試験によってそのランクは上昇させることができる。高ランクになれば、街や国の指定する仕事もできる様になり、S級になるとこの街の象徴である風車を建てることを許される。
この街にはクグロフを含め、S級職人が3人しかいないが、風車の建設を依頼されるのはクグロフただ一人、つまりこの街の風車全てがクグロフの作品。
クグロフの作風は異国の技法が取り入れられているのが特徴。
その技法は、修行で学びに行った国の技術、国の名は「ジパング」。「
この街はスペイン アンダルシア地方特有の白壁の建物と石畳の坂道が続くロンダの旧市街によく似た街並みだが、その中に鮮やかな色の和道はクグロフマジックと呼ばれ、人々の目を引き、大切にされ、シンボルとして愛されていた。だから風車はクグロフしか創る事を許されないのだ。
見た目はロマンチックな街だが、現実はロマンよりもリアルが溢れている。
しかし経済は安定しているので面白い職業も存在する。
「冒険家」
シャルロット・ジェノワーズ、 26歳 冒険家
冒険家であるシャルロットは、危険地帯を走り抜けるだけあって日々のトレーニングを欠かさない、筋肉質でスラリとした体形、銀色の長い髪に凛々しい逆ㇵの字の眉毛、リーダー気質の彼女は男性からも頼りにされる。ただ目じりが下がってくしゃくしゃになる笑顔は見た目とのギャップがあり、とても愛らしい。
当然だが登りたい山を登り、下りたい川を下って給料など発生する訳ではない、国の依頼により「調査」を目的とした冒険によって所得を得る仕事だ。
この仕事には報酬制度も設けられており、発見による度合いにより追加報酬が発生する。新種の生物や植物、化石、土器、そう言った街や国の歴史に関わるものであればその報酬は跳ね上がる。
この仕事もストラクチャー・カンパニー制度ではあるが、アンブロシア国全体でもシャルロットを含めて2人しかおらず、そのうちの1人は伝説の冒険家と呼ばれた「ロリポップ・スフレ」。現在彼女は行方不明と発表されている。
つまり実質活動しているのはシャルロット1人しかいない。
人材育成制度が作られたが、仕事を受ける際に命の保証はない、何かあっても国に一切の責任は無いと言う契約書類にサインをさせられるほど危険、旅立ったら2~3年帰ってこられない事もあると言う理由で、育成制度を利用する者が現れないのが現状。
合わせて体力試験を突破する事が出来る人材が居ないのも大きな問題である。考古学や地質学などのスキルも必要で、体力や精神力もサバイバル能力も必須なこの仕事は、人間としての限界を超えていると言ってもいいかもしれない、だから後継者が居ないと言うのも納得と言えば納得だ。
クグロフとシャルロットは夫婦。
互いの仕事を尊重し、尊敬しあっているので、数年間のすれ違いがあっても、こまめに連絡を取り合って互いの仕事の状況を話しては、時にはアイディアを、時にはアドバイスをし合い、愛すればこその距離感として、会えない時間を楽しむ余裕がこの夫婦の強み。
クグロフのパソコンモニターを覗き込んで、シャルロットに手を振るのは―
息子のオランジェット、7歳。
とても我慢強く、1歳の頃から泣かない子で兄妹愛がとても強く、5歳になって直ぐに野良犬に襲われた妹を傷だらけになって守った事があり、その時のキズが右目の上にまだ残っている。いつも両親が捨てたものを拾って何かを組み立てるのが大好きで、意味不明な建造物が部屋に散在しているけれど、片付ける事を許さない。
モニターに写る母親に、ママいつ帰って来るの?を連発しているのは―
娘でありオランジェットの妹 クラフティ、5歳
何かあるととにかく兄オランジェットを頼る、お兄ちゃん大好きな妹。
5歳でありながら人の気持ちを察する優しさを持っており、本を読むのが大好き。更に飛んだり跳ねたり身体を動かすのも大好きで、暇さえあれば広い屋敷を猿の様に走って跳んでパルクールの真似ごとをしている。艶々の黒髪はいつも三つ編みのおさげに束ねられている、この三つ編みはオランジェットが担当している、緩くて直ぐにほどけるのだけれど。
ノートパソコンをパタンと閉じてクグロフが立ち上がる。
『よーし海賊ども!飯の時間だ!』
無精髭に赤茶色でウエーブのかかった髪を無造作にオールバックにして後ろで束ねたクグロフは今から海賊船の船長だ。
『おー!』『おー!』右手を高々と上げる2人は船員。
『クラフティはテーブルを拭けー!』
『オランジェットは船長についてこい!』
『サー!イエッサー!』
クグロフなりのコミュニケーションであり、遊びを取り入れた統率の取り方なのだ。海賊になる事をクラフティは最初は嫌がったけれど、オランジェットは父の策を読み取ったので、すぐさまそのノリに乗った。
『帆を上げろー!キッチンへ向けて面舵いっぱーい!』『ヨーソロー!』2人が楽しそうに海賊をしていると、クラフティも混ざって、ついに海賊団が結成されたのだ。
『そーし!野郎ども座れ!ソーセージと目玉焼きだからと言ってがっかりするんじゃないぞー!』
『イエッサー!』
『そしてまだ食うなー!重大な発表が野郎どもにあるんだよーく聞けぇええ』
『イエッサー!』
『よだれを拭いて聞けよ野郎ども!』
『はやくぅー!お腹空いたよー!』
『黙れ野郎ども!明日、我が海賊団の航海士、シャルロットが帰還する!』
『え?』『え?』
『喜べ野郎ども!』
『やったー!!!!!』
『よぉおおおし野郎ども!食え食え食え!』
『サーイエッサー!』
『旦那様!言って下さればお料理やりますのに!』
プリン・アラモード、35歳 家政婦
いつもは品の良いプリンが食堂の扉をドーンと開けて入って来る。
オランジェットが生まれてからずっとこの家の家政婦として仕えているプリンは、線が細いがバリバリ仕事をこなし、とても優しいので子供たちも大好きで夫婦からの信頼も厚い女性。長い黒髪を束ねて頭の天辺でお団子にし、太めの黒メガネがトレードマークだ。ジェノワーズ家専属の家政婦であり、弁護士を目指して勉強をしている。
くいっと鼻まで下がった眼鏡を人差し指で上げると、両手を腰に当てて仁王立ちしている。
『プリンさん、そう怒らないで、私も子供たちと海賊ごっこするのが楽しいんですよ。』
『海賊ごっこ?』
『野郎ども!プリンを捕まえて座らせておけ!』
『サーイエッサー!』
子供たちに捕獲されたプリンは食卓テーブルに座らせられ、その目の前に食事を出される。
『船長命令だ、食べなさい』
『いや、家族でもないのにそんな失礼な事できません!それに私、高所恐怖症じゃないですか』
『高所恐怖症は知らないが、7年も我が海賊団に所属していて何を言ってるんですか、船長命令だ!さ、食べるんだ!』
『食べろ食べろ!』『食べろー!』
『旦那様…本当にいつもありがとうございます、では、いただきます』
『弁護士の勉強はどうですか?』
『頑張ってはいるんですけど、歳が歳ですから帰ったら眠くて…それに私、閉所恐怖症じゃないですか』
『閉所恐怖症は置いといて、うちでの仕事、少し減らしましょうか?』
『いえいえいえ、そういう意味では…。減らされるとお給料も減りますし、それに私潔癖症じゃないですか』
『お給料据え置きで良いですよ、潔癖症は知りませんけど。』
『そんな事できません!何言ってるんですか旦那様は!どうしてそこまで…』
『家族ですから』
『え?』
『プリンさんは私たちの家族ですよ、だからです、当然ですよ』
『なんてもったいない…』
プリンはシクシクと涙をこぼしながら声を殺して泣いた。
『船長!泣かせてはいけないのだ!』『そうなのだ!』
『わかったわかった、すまないねプリンさん』
『はい…ほんとこの家の人達は…』
幼い頃に両親を失い、施設で育ったプリンは天涯孤独であるため、家族と思って接してくれるジェノワーズ家の人々には感謝しかなかった、そして心から嬉しかった。
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