第3話
「ねね、徳間さんだよね?」
誰?
この人、見たことがない…、気がする。
しかし誰ですかと聞いた後に、クラスメイトだったら余りにも失礼すぎる質問である。
まぁ、ここの学校の人達に興味もなければ、情けをかけるほどの価値もない。
だから徳間の口から出た言葉は…。
「えと、誰?」
「あ、僕のこと知らないよね。二組の沢井、宜しく。」
「あ、宜しく…。じゃあ、鐘なったら遅刻しちゃうから。」
「うん。気を付けて行くんだよ。また後で。」
沢井と名乗った人が言った『また後で』が気になったが、あと数分で鐘がなってしまうので振り返らずに階段を駆け登った。
教室に着き、自分の机の方へ行くが見た感じ自分の席などない。
世間では陽キャと言うのだろうか、運良く自分の同じ系統の人間がその場にいて、その人達と群がることが出来ることによって、自分がこの世を牛耳ることのできるほどの権力者だと勘違いしている連中が、徳間の席付近によく屯しているのだ。
徳間のいる一年一組は定期試験の後に席替えをする。
席は担任が決めていて、その配置からして成績順になっている。
成績の良い生徒から順に教室前方、廊下側から並ぶわけではなく、教室後方の窓際角の席から順に並んでいる。
入試の際、首席で入学した徳間は中間試験でも一番で、窓際の席に座っていたが右隣の生徒が変化していなかったことからこの席決めの法則に気付いた。
徳間が近付いてもその場から移動する空気がなかったので、声を掛ける他ない。
「ちょっとどいてくれる?」
「はー?」
「そこに私の席があるから、そこにいると座れない。だからどいて。」
「うっざ。」
といった一連の流れはいつも通りのこと。
本当に言われる方も面倒臭いのだから、言う方も面倒臭い。
どちらにとっても不利益でしかないのだから、教室の前の方(彼等は前の方の席に座っている)に屯すればいいのにと思っていた。
ややあってから、鐘の音の同時に担任の宇田川先生がやってきた。
いつも物音を立てずに歩いて、音を立てずに教室に入って来るが強面の雰囲気があるのだろう、教室中に散っていた生徒達は直ぐに自分の席に着いた。
(私にもあの雰囲気があれば良かった)とそれを見る度に徳間は思っていた。
「うん、今日は休みゼロ。遅刻者なし。読書の時間だから、静かにするように。」
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