第37話
──現代日本、都立桜ヶ丘高校・異世界部室。
「……我は、帰還した」
ユナの声が、二つの世界が混じり合う混沌の空間に響き渡る。その瞳は深紅に輝き、背後には黒い翼のような因子の光が広がり、その姿は、かつての魔王そのものだった。
「ユナ……!」
ユウトの**
「主よ……! ついに、この世界に再臨された!」
ヒナタは、魔王と化したユナにひざまずき、狂信的な喜びを宿した瞳で彼女を崇拝する。彼の
その時、カイは、目の前の絶望的な光景を睨みつけた。校舎と魔王城が混じり合う混沌、そして魔王と化したユナ。この全ての元凶が、部室の中央で脈動する顕現装置にあることを、彼の「勇者因子」が叫んでいた。
「美作先生……! これ以上、世界を弄ぶのはやめてください!」
カイの**
「無駄ですよ、カイくん! その装置は、私の『プロトコル』の結晶……!」
職員室の美作先生は、端末を操作しながら叫ぶが、カイは止まらない。彼の剣のような光が、装置のクリスタルへと振り下ろされる。
ガアアアアァン!!
激しい衝撃音と共に、顕現装置のクリスタルに亀裂が走る。カイの
その隙を突くように、ユウトは魔王と化したユナへと駆け寄った。
「ユナ! 俺だ! ユウトだ! 聞こえるか!?」
ユウトは、ユナの冷たい手を掴み、必死に語りかける。彼の保護因子は、魔王の圧倒的な力に押し潰されそうになりながらも、ユナの「人間」としての意識に語りかけようと、その全てを注ぎ込む。
「君は、俺が守る。でも、それは、君を『縛る』ためじゃない。君が『君』であるために、俺はここにいるんだ!」
ユウトの言葉が、ユナの深紅の瞳の奥で、微かに揺らぎを生んだ。魔王の力に覆われたユナの意識の深層で、彼女の
(……ユウト……お兄ちゃん……?)
ユナの脳裏に、カラオケで歌い合った記憶、ユウトに手を引かれて歩いた帰り道、そして、彼に「君が“君”だから、好きだ」と告げられた瞬間がフラッシュバックする。それは、魔王としての記憶とは異なる、「人間」としての彼女自身の「選択」の残響だった。
「主よ……何を迷われるのです……!」
ヒナタは、ユウトの介入に焦り、再びユナへと手を伸ばそうとするが、カイが装置の破壊に集中している間に、ミレイが彼の前に立ちはだかる。
「マジ、邪魔させないんだからね! カイくんの邪魔はさせない!」
ミレイの
ユナの意識は、魔王の因子と「人間」としての自分との間で激しく揺れ動く。
(私は……魔王……? それとも……ユナ……?)
彼女の心の中で、二つの「自己」が激しく衝突する。しかし、ユウトの温かい手が、彼女を現実に引き戻そうとする。
「ユナ! 君は、ユナだ! 俺が知ってる、俺が選んだ、俺の妹だ!」
その言葉が、ユナの心の奥底に響き渡った。彼女の瞳の深紅の輝きが、一瞬だけ揺らぎ、その奥に、かつての優しい光が微かに戻る。
「……私は……」
ユナは、自身の魔王因子と向き合い、前世の自分と対峙する。そして、震える足で、ゆっくりと立ち上がろうとした。
──校舎の屋上から、ランドセルの少女は、その全てを静かに見下ろしていた。彼女のノートには、最後の記述が加えられる。
「記録完了。顕現装置は破壊されつつある。魔王の因子は、人間としての『選択』によって揺らいでいる。これは、物語の『最終戦争』における、最後の『選択肢』の始まり。そして、その『選択』が、世界の運命を分かつ」
彼女の瞳の奥には、避けられない運命への深い憂いが宿っていた。
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