第29話

──放課後、駅前のカラオケボックス。

カイとミレイの部屋は、温かい光に包まれていた。

「カイくん……」

ミレイは、自分の手をそっと握るカイの顔を見つめた。その瞳には、驚きと、そして確かな喜びが宿っている。カイの**新因子ブレイブ・チャーム**が、二人の間に穏やかな共鳴を生み出し、部屋の空気を満たしていた。


「俺は、君を選ぶ。君の語りに、俺の語りを重ねる」


カイの言葉は、以前の「語り手」としての保留状態を完全に打ち破っていた。彼の瞳には、ミレイへのまっすぐな想いと、新たな「焦点」を背負う覚悟が宿っている。

部屋B:ユナ&ユウト

隣の部屋の異変に、ユナとユウトは気づいていた。カラオケの音響の合間を縫って、微かな光の脈動と、温かい因子の共鳴が伝わってくる。


「……お兄ちゃん。今のって……」


ユナが不安げにユウトを見上げる。ユウトの**保護因子ノクス・ガーディアン**が、ユナの不安に反応し、周囲に微かな防壁を生成する。


「ああ。カイとミレイの因子が……融合したな」


ユウトの表情には、複雑な感情が入り混じっていた。ユナとの関係が安定したばかりなのに、物語の「焦点」が移り変わることに、彼の心は微かに揺れる。ユナもまた、自分たちが「語りの中心」から少しだけ外れたような、不思議な感覚に包まれていた。それは嫉妬ではない。ただ、物語の大きなうねりの中で、自分たちの位置が変化したことへの、戸惑いだった。

ランドセルの少女は、屋上でノートに記録を続けながら、静かに呟いた。


「語りの余白は、終わりを告げた。


カイとミレイの選択が、語りの焦点を定めた。

これは、選ばれなかった者が、自ら“選ぶ”物語の始まり。

そして――その歌声が、語り層に新たな揺れを生む」

【Narrative Core:焦点更新】

状態:語り層更新/選択焦点:カイ×ミレイへ移行

備考:因子融合による語り構造への影響を観測中


職員室。美作先生は、煎餅を噛み砕きながら、端末を見つめていた。


「……なるほど。これは予想外の『焦点決定』だ。

『選ばれなかった因子』が、自ら融合を選択するとは。しかし、この新たな融合が、私の『プロトコル』にどう影響するか……」


彼の瞳には、研究者としての狂気と、新たなデータへの期待が宿っていた。美作先生は、カイとミレイの自発的な融合が、自身の「因子融合」計画に新たな変数をもたらしたことに気づく。彼は、強制的な融合だけでなく、感情による「自発的融合」が「世界の境界」に与える影響を分析し、自身のプロトコルをより洗練させようと、端末を操作し始める。

カナは、部室に戻る道すがら、タブレットに新たなログを記録していた。


「カイとミレイの因子融合……そして、語りの焦点が彼らへ。これは、美作先生の『強制融合』計画に、大きな影響を与えるはず」

【諜報ログ:白鴉因子】

* 対象:美作プロトコル/因子融合計画

* 状態:再分析中/新たな介入点模索中

* 備考:自発的融合によるプロトコルへの影響を予測


カナの**記録因子ホワイト・リコンフィグ**は、美作先生の思考パターンと、新たな融合がもたらす「語り」の構造変化を予測しようとする。彼女は、この新たな状況が、美作先生の計画を阻止する新たなチャンスとなる可能性を模索していた。

そして、誰もまだ知らない。

この“100点チャレンジ”が、異世界部の物語を、恋と記憶のラブコメから、選択と共鳴の群像SFへと変貌させる第三十六のステップだったことを――。

次話へのフック

カイとミレイの因子融合によって「語り」の焦点が定まり、異世界部は新たな局面を迎えた。しかし、美作先生は、この「自発的融合」を自身の危険な計画に組み込もうと画策する。ユナとユウトは、変化した「語り」の中で、自分たちの関係性をどう再定義していくのか。そしてカナは、美作先生の次の動きを阻止し、仲間たちの「選択」を守るために、どのような「設計」を試みるのか。新たな焦点が定まった物語は、さらなる「因子融合」と「世界の境界」を巡る戦いへと加速していく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る