第13話
「お披露目会?ですか?」
「ああ」
ここへ来て一ヶ月が経った頃。
朝食の時間に、陛下から「お披露目会がある」と告げられた。
「セレスティナを婚約者とする大々的なお披露目会だ」
私は、そんなものに出たことがない。
パーティーだの晩餐会だの、そういったものに出してもらえたことがなかった。
どうしよう、と困っていると、陛下はふっと笑った。
「まだ時間はある。いくらでも準備はできるぞ」
見透かされているーーのか。
けれど、そのあたたかい言葉になぜか安心した。
翌日。
いつもの庭園での朝の時間で、陛下は仰った。
「セレスティナ。街に行きたくはないか?」
「街、ですか?」
ああ、と陛下は頷いた。
「視察も兼ねてだが」
街。私にとっては、あまりいい思い出がない場所だ。
◆
母が亡くなって、しばらくした頃ーー私は街に出た。
知り合いの人に、「久しぶりです」、そう声をかけると相手は顔をしかめた。
「どなたですか?」
たったそれだけの言葉に、まだ幼かった私は傷ついてしまった。
けれど、私はーーそのとき冷遇されるとは思いもしなかった。
「セレスティナです」
「セレスティナ?」
「はい。第七王女の」
その瞬間、周りの人々の目の色が変わった。
今まで知らんふりをしていた彼らが、急に睨みつけるように見てきたのだ。
「王女……だって?」
「はい」
にこやかに立っているのが余計に気に食わなかったのだろう。
私はその人に、平手打ちをくらった。
「え……」
「金髪でもないやつが、王女を名乗るんじゃないよ!そのくすんだピンクの髪でーー!」
思えば、私はその瞬間初めてーー私が「忘れられた王女」であることを実感したのだろう。
◆
「…セレスティナ?」
はっと我にかえる。
皇帝陛下を前に、考え事をするなんて…。
「はい、」
「街は嫌か…?」
心配そうに尋ねてくれる彼を見て、行こう、と思った。
そうだ、ここはノクターンじゃない、カルミオンだから。
「いえ、嫌じゃないです。行きたいです」
「そうか、よかった」
嫌な思い出なんて、早く消し去りたい。上書きしたい。
その上書きがーー私にとって、いいものでありますように。
朝食後、私はジェニーに手伝ってもらって支度をした。
町娘のような格好で、とのことらしい。
「お待たせしました」
「ではいこうか」
「はい」
馬車から見る景色は、どれも見たことのないものばかり。
ただ、来る前に見たノクターンの景色とは、何かが違う。
そもそも家族は、おそらく視察などしていなかったと思う。
「街に出るのは初めてか?」
「いえ、ノクターンでたまに外に……」
くすんだピンクの髪を恥じて、フードを被っていたけれど。
それに、偽名を使っていたっけ。
馬車の向かいには、陛下が座っている。
一ヶ月前は怖くて怖くてたまらなかったのに、今は不思議と落ち着くのだ。
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