第13話

「お披露目会?ですか?」

「ああ」


ここへ来て一ヶ月が経った頃。

朝食の時間に、陛下から「お披露目会がある」と告げられた。


「セレスティナを婚約者とする大々的なお披露目会だ」


私は、そんなものに出たことがない。

パーティーだの晩餐会だの、そういったものに出してもらえたことがなかった。

どうしよう、と困っていると、陛下はふっと笑った。


「まだ時間はある。いくらでも準備はできるぞ」


見透かされているーーのか。

けれど、そのあたたかい言葉になぜか安心した。


翌日。

いつもの庭園での朝の時間で、陛下は仰った。


「セレスティナ。街に行きたくはないか?」

「街、ですか?」


ああ、と陛下は頷いた。


「視察も兼ねてだが」


街。私にとっては、あまりいい思い出がない場所だ。



母が亡くなって、しばらくした頃ーー私は街に出た。

知り合いの人に、「久しぶりです」、そう声をかけると相手は顔をしかめた。


「どなたですか?」


たったそれだけの言葉に、まだ幼かった私は傷ついてしまった。

けれど、私はーーそのとき冷遇されるとは思いもしなかった。


「セレスティナです」

「セレスティナ?」

「はい。第七王女の」


その瞬間、周りの人々の目の色が変わった。

今まで知らんふりをしていた彼らが、急に睨みつけるように見てきたのだ。


「王女……だって?」

「はい」


にこやかに立っているのが余計に気に食わなかったのだろう。

私はその人に、平手打ちをくらった。


「え……」

「金髪でもないやつが、王女を名乗るんじゃないよ!そのくすんだピンクの髪でーー!」


思えば、私はその瞬間初めてーー私が「忘れられた王女」であることを実感したのだろう。



「…セレスティナ?」


はっと我にかえる。

皇帝陛下を前に、考え事をするなんて…。


「はい、」

「街は嫌か…?」


心配そうに尋ねてくれる彼を見て、行こう、と思った。

そうだ、ここはノクターンじゃない、カルミオンだから。


「いえ、嫌じゃないです。行きたいです」

「そうか、よかった」


嫌な思い出なんて、早く消し去りたい。上書きしたい。

その上書きがーー私にとって、いいものでありますように。



朝食後、私はジェニーに手伝ってもらって支度をした。

町娘のような格好で、とのことらしい。


「お待たせしました」

「ではいこうか」

「はい」


馬車から見る景色は、どれも見たことのないものばかり。

ただ、来る前に見たノクターンの景色とは、何かが違う。


そもそも家族は、おそらく視察などしていなかったと思う。


「街に出るのは初めてか?」

「いえ、ノクターンでたまに外に……」


くすんだピンクの髪を恥じて、フードを被っていたけれど。

それに、偽名を使っていたっけ。


馬車の向かいには、陛下が座っている。

一ヶ月前は怖くて怖くてたまらなかったのに、今は不思議と落ち着くのだ。








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