第26話 おんぶ

 ますに砕かれた氷が敷き詰められいて、そこに刺身が盛られている。


 小ぶりだが透明感あるホタテ、どこか可愛らしい色合いの背をむかれた甘エビ


 皮が少し魅せてある鯛、食べやすそうな蛸、飾り切りの入ったイカ


 赤いのも入っている海藻の側には、ウニ



 それとは別の注文で、鮭の花盛りを頼んだ。



 出てきたのは、平皿いっぱいの鮭の刺身を一皿分花にみたてたもの。


 今年は脂がのっていておすすめらしいことをあとで知る。



 一緒に店に入った女が化粧直しから戻って、向かいの席に座る。


 素直に「綺麗だし、美味しそう」と喜んでくれた。


 俺の要望で今日は着物姿。


 地味派手な感じが、色んなものに映えている。


 

 横髪あたりのウェーブと、桜色になってきた彼女の首筋は酒の肴。


 おちょこで呑んでいる透明な酒に、鮭の刺身の脂が移って輝いて見えた。



 今日は彼女に求婚するかもしれない日。


 彼女はそれに気づいていないようだった。


 緊張して酒を飲み過ぎて、俺は酔い潰れて眠ったらしい。



 その店、始まって初めてのことらしい。



 気づくと俺は彼女におぶられていて、彼女は夜道を歩いている。


「ああ、起きられたの?」


「いくら近所だからってっ・・・」


「ここらへんは車通ったりしないでしょうに」


「今、降りるから」


 夜道は危ないからと手をつないで歩いていると、彼女から結婚したいと言われた。


 記憶はないが、どうやら俺は酔っている間に求婚したらしかった。


 通りすがりの猫が、「おめでとう」と喉元で言って夜の闇に消えていった。



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