第三話_備中斑返し_三
三:三人の家臣
直接の上司を幾つか飛び越えて呼び出された三成は、
三回り近く年上の小六から
備中から京まで、物資の補給・調達を一斉にどう進めるか、
もちろん、京へ引き返す動きは、あまり人に知られたくないところである(敵に悟られぬようにするにはどうするか)について、小六は、これらを
「人知れず、安土から備中へ進む信長公の援軍のための後方支援を行いたい」と言い換え、意見を求められる。三成の返答は愚か反応の表情も浮かべる前に(三成に対して一回りちょっと年上の)官兵衛が付け足す。
「後追いの援軍も考えられよう。規模は定かでないが、
追加の兵も見込んでおかねばなるまい」
付け足したといっても備中から京へ秀吉軍を極めて短期間に移動させねばならぬ、という実際の課題に比べれば、その置き換えは小規模、ずいぶん低い見積もり。言わずにいられないかったのだろう。
その真意を知らぬ三成は、高松城包囲戦下での現状を基準に、
ややスケールを広げる程度で(こと)足りると見込みの趣旨を述べて、
「物資の調達は大丈夫でしょう」と付け足しの意を図りかねながら二人に回答。間髪を入れず、底光りする眼差を向けながら官兵衛が
「多いか少ないかは問わぬ。だが、補給先が広範囲に及ぶのは確かだ。
その指示系統、果たして成り立つのか?」
といっても、用意周到と周りから評価されている若者がその辺を見落としていることなどあるまい。厳しい視線はフリである。三成は、軽く息を整え、笑みを含んで応じた。だが、
「(指示系統はおろか)私のような若輩者では、
各箇所へ細かな指示を出すなんて到底……。」
などと半ばふざけ気味な口調で、心許ない返答。それでも、続けて「ですが、補給の依頼は成り立ちましょう。
今の士気なら、(ある程度、いえいえ、相当の)追加の注文にも
応じてくれるはずです。みんな、乗り気になりますよ。」
一旦(己を)下げて(周囲を)上げる謙遜めいた口ぶりだが、この若者がそう言うときは、むしろ相当な自信を持っている証拠だと官兵衛は知っていた。
しかし、多くの者が積極的協力してくれるだけで安心はできない。なにせ、(さすがに知らないだろうが)織田方の中国方面軍が置かれている状況はあまりにも切迫している。
「急に増える注文にも即対応できる――
その“大丈夫”の根拠を、聞かせてもらおうか」
促され、三成の脳裏に、あの夜の酒宴の会話がふと蘇る。
そして、懐から一つの袋を取り出すと、二人に問いかけた。
「(こちらへ来てから)お二人は、浅葱色の蝶を見たことがございますか――?」
そう言いながら、三成は守り袋を開き、薄手の浅葱色の片を取り出した。小六が
「蝶の翅か。あまり見ない模様、柄に思えるのは…(四分の)
一枚だからかな、いずれにしても前、右前の翅だな。」
つぶやくと頷く三成。気を良くした小六は茶色の縁取りの中の鮮やかな浅葱の色に見覚えもある気もしてきたので
「(春にしては)大きな蝶が、このような浅葱色で……」
高台かな、海辺近くかな、工事の時期か、行軍の時か、(定かでないが)この備中で見た気もするようだと付け加えた。
「それです。いずれの場合も、この蝶をごらんになってるかもしれませんね」
と小六の記憶を引き受けるように三成がこの浅葱色の蝶が
秋冬に瀬戸内海を四国の方へ向かって南へ渡り、
今の時期の春夏は四国の方から北へ向かって海を渡るなど手短な説明を付け加える。
四につづく
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