第52話 レニア、釣りに挑戦する

 心に余裕をもてたのは、ひとえにみんなが頼もしすぎるからだろうな。

 ……ただ、あいつを本当に食べるのか?


「このトカゲって食材としてどうなんですか?」

「王都では食堂で普通に提供されるぞ? 比較的入手しやすいから、一般的に広く親しまれている味だ」

「そ、そうなんですね」


 現代日本じゃトカゲは食べないけど、世界にはもしかしたら普通に食材として扱っているところがあるのかもな。


 カエルやワニを食べる国があるくらいだし、俺が知らないだけかもな。

 四人からオススメされた異世界トカゲ料理。


 さすがにここまでプッシュされると、味が気になってきたな。

とはいえ、さすがにあれを丸ごと一匹分は食べきれないので部位を切り分けて持ち帰

ることに。


「あとは他の野生動物たちが綺麗にしてくれるさ」


 ハモンズさん曰く、山で狩猟などをした時もそうやっているらしい。

 これがこの世界でいう自然との付き合い方なんだろうな。


 とりあえず、新鮮なトカゲ肉と大量の魔鉱石を入手し、午前の部は無事大成功という形で終了した。


 昼食は事前に用意して持ち込んだサンドウィッチをいただき、その後は予定通りに釣りとキノコ採集へ。


 ちなみに、今回の夕食でもキャンプ飯を用意しているのだが、トカゲ肉が加わったことで豪華さが増したな。


 量的には問題ないけど、単調なメニューにならないよう魚や野菜は確保しておきたいところだ。

 

 チームの分担としては、俺とオルティスさんとレニアが釣りで魚を確保し、クロップとハモンズさんがキノコ狩りに出かけていった。


 今回は焼き魚以外で使おうと思うので、前回のように人数分を釣らなくちゃいけないというプレッシャーはない。


 なぜこうしたかというと、今回は人生初となる釣りに挑む者がいたからだ。


「レニア、これが釣りで使用する竿だよ」

「おぉ……!」


 瞳を輝かせながら竿を握るレニア。

 騎士団の遠征でサバイバル経験も豊富な彼女ではあるが、意外にも釣りはやったことがないという。


 でもまあ、戦場でのんびり魚なんて釣っている場合じゃないよな。

 そういう意味では、彼女にとって今日という日が思い出深いものとなるよう、ぜひとも一匹釣ってもらいたいな。


 もうひとりのチャレンジャーであるオルティスさんは経験者なので、俺からのアドバイスもなく練り餌をつけて早速キャスティングをしていた。


 そのたたずまいはもはやプロの領域に達している。


「オ、オルティス殿……凄い貫禄ですね」

「うん。俺よりもうまくなっている気がするよ」


 呑み込みが早いってレベルじゃないな。

 とにかく、これでレニアへのアドバイスに専念しても大丈夫そうだな。

 彼女が使うのは現代日本の釣具店で入手できる物なので、スピニングリールがついている。


 ベイトリールに比べるとバックラッシュの心配がない分、キャスティング時にかかる緊張感が減るから、彼女にはこっちの方がいいだろうな。


 やり方を教え、その後で一度お手本を披露。

 それが終わるといよいよ彼女の番だ。


「さあ、やってみて」

「は、はい。な、なんだか、初めて本物の剣を手にした時と同じくらい緊張しますね」


 そんな大袈裟な。

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