第7話 再訪と宣戦布告
伝説級の剣を手に入れてから数日。俺の生活は一変した。
薄暗くカビ臭い安宿から、衛兵が常駐する探索者向けの小ぎれいな宿屋へと拠点を移し、食事もまともなものが摂れるようになった。金が心に余裕を持たせる、というのは本当らしい。
日中はガンツさんの工房に通い、オーダーメイドの防具のための採寸をしたり、彼の武勇伝を聞いたりして過ごした。頑固だが面倒見のいい彼との時間は、俺にとって新しい居場所ができたようで心地よかった。
『湊さん、知識は力になります。私のナビゲートも、あなたの知識があればさらに効果的になりますから』
そんなシフォンの囁きに従い、空いた時間にはギルドの図書館に通い詰め、ダンジョンやモンスターに関する知識を貪欲に吸収した。ただチートに頼るだけじゃない。俺は俺自身の力で、もっと強くなりたかった。
そして、ガンツさんが防具の素材を仕入れに行っているある日の夜。
俺は宿屋の自室で、手に入れたばかりの相棒――《名も無き者の剣》を磨きながら、シフォンと今後の相談をしていた。
「シフォン。Dランクになったんだ。そろそろ、本格的なダンジョンに挑戦してみたい」
『そうですね。今の湊さんの実力と、この子の力があれば、大抵のDランクダンジョンは攻略できるでしょう』
この子の力、とシフォンが言うと、手の中の剣がビィン、と嬉しそうに震えた。どうやらシフォンとこの剣は、魔力を通じて意思疎通ができるらしい。
『例えば、《風切りの渓谷》。飛行系のモンスターが多く、この子のリーチと剣技を試すのに最適です。あるいは《湿地の洞窟》。毒を使うモンスターが多く、状態異常への対策を学ぶ良い機会になりますが……』
シフォンはいくつかの候補を挙げた後、ふと、悪戯っぽい響きを含んだ声で囁いた。
『……あるいは、もう
「え? 《微睡の洞窟》に? なんでまたE級のダンジョンに……」
俺の当然の疑問に、シフォンは楽しそうにくすくすと笑う気配を見せる。
『あのダンジョンは、私の故郷です。湊さんと私が出会った、大切な場所。そして……まだ、あなたに見せていない秘密があるのです』
秘密、という言葉に心がざわつく。
彼女は、俺の好奇心を煽るように、さらに囁きを続けた。
『それに、もしかしたら……あなたを追放した彼らも、いるかもしれませんよ? ふふ、今のあなたの力を見せつけてあげる、良い機会ではありませんか?』
小悪魔的な、甘い誘惑。
シフォンの秘密と、元パーティーへのリベンジ。二つの目的は、俺の心を決めるのに十分すぎた。
「……わかった。行こう、《微睡の洞窟》へ」
◇
翌日。
オーダーメイドの防具はまだ完成していないため、動きやすい軽装のまま、俺は腰に新しい相棒を差して《微睡の洞窟》へと向かった。
以前、絶望の中で歩いた道が、今は希望に満ちた道に見える。
ダンジョンゲートの前には、いくつかのパーティーが準備をしていた。
そして、その中に――いた。
見間違えるはずもない。タカヤ、ユナ、ケンジの三人だ。
彼らも俺に気づき、げ、という顔をした後、嫌悪感丸出しでこちらにやってきた。
「ちっ、またお前かよ。オリハルコンの一件で調子に乗ってんじゃねえぞ」
タカヤが、俺の腰にある剣を嫉妬に満ちた目で見ながら吐き捨てる。
Dランクになったという噂は、当然彼らの耳にも入っているのだろう。
「Dランクになったからって、ソロでうろつくとか馬鹿じゃないの? どうせまぐれで上がっただけなんでしょ」
ユナが嘲笑う。
だが、今の俺にその程度の言葉は響かない。
俺は彼らを完全に無視して、ダンジョンの中へ入ろうとした。
「おい、待てよ湊!」
タカヤが俺の行く手を阻む。
「その剣、いい値だったんだろ? 俺たちがお前を育ててやったおかげで稼いだ金で買ったんだろうが。少しは分け前をよこせよな」
そのあまりにも理不尽な言い草に、俺の中で何かがプツリと切れた。
怒りではない。呆れだ。
こいつらは、どこまで腐っているんだ。
その時だった。
ダンジョンの奥から、複数の低い唸り声が響いた。
「グルォォォ!」
「グガッ!」
現れたのは、ただのゴブリンではない。一回り体が大きく、歪んだ鉄の剣を手にしたホブゴブリンが三体。タカヤたちCランクパーティーでも、決して油断はできない相手だ。
「ちっ、面倒なのが来やがった! おい湊、お前も戦えよ! Dランクになったんだろ!」
タカヤが身勝手に叫び、剣を抜く。ユナとケンジも慌てて戦闘態勢に入った。
俺は、そんな彼らを尻目に、静かに腰の剣に手をかけた。
『湊さん、手慣らしです』
耳元で、シフォンの冷徹なまでに澄んだ声が囁く。
『一瞬で、終わらせてしまいましょう』
俺は、一歩前に出る。
そして、タカヤたちが反応するよりも早く、鞘から《名も無き者の剣》を解き放った。
――ヒュンッ!
空気を切り裂く音ではない。
音そのものが、空間に置き去りにされるような、神速の抜刀。
俺が振るった一閃は、青い軌跡を描き、三体のホブゴブリンの間を駆け抜けた。
時が、止まる。
俺はゆっくりと剣を鞘に納め、カチン、と小さな音を立てた。
その音を合図にしたかのように、背後でホブゴブリンたちの体が、綺麗に両断されて崩れ落ち、光の粒子となって消えていった。
「…………え?」
タカヤが、ユナが、ケンジが。
目の前で起きたことが理解できず、声も出せずに固まっている。
剣を抜いたことすら、彼らには見えていなかったのかもしれない。
俺は、そんな元仲間たちに初めて振り返り、静かに告げた。
「もう二度と、俺の前に立つな。次はない」
それは、過去の自分との完全な決別を意味する、宣戦布告だった。
Fランク探索者の俺にだけ、ダンジョンの女神様が《ASMR》で囁いてくる件〜その甘々な神託(アドバイス)で、ソロでも余裕で世界最強になりました〜 境界セン @boundary_line
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