第12話

地面に木の枝で村の見取り図を描き、『ψ』の様な形の記号を描く。

「確認できただけで弓兵はここッス」

なるほど、弓と矢を模しているのか。分かりやすい。


歩兵は『Λ』の形だ。

「確認できたのは、弓兵4、歩兵23が外に。上位種は特に見当たらない。建物の中までは確認できない。ってとこッス」

「想定してたより小隊だな。先遣隊かもしれない」

「可能性はあるでござるな」


もっと大勢のオークと戦うつもりだったのか…。


上位種とは進化したオークのことだ。下顎の牙が大きくなるとか見た目で分かるらしい。確かハイオークと呼ばれている。さらにその上にはジェネラルとかキングとかいるらしい。


作戦はこうだ。

まずはルマンダさんが確認できてる弓オーク4体を遠距離魔法で倒す。

更に、大魔法で村全体に炎の槍を降らせる。

その魔法が止んだのを合図に、ライオネンさん、ガナさん、ケニーさんが突っ込む。

僕とミロはルマンダさんの側で待機。


まず、ルマンダさんはケニーさんが見つけた狙撃ポイントへ移動。僕とミロもついて行く。山登りだ。


確かに村が一望できる場所。だが、距離は大丈夫なんだろうか?ルマンダさんに小声で訊ねると想定内らしい。

遠距離魔法はスキルレベルが上がれば、射程距離も伸びると教えてもらう。


おそらく、本来の住民達が村を守るために築いたであろう壁の上に弓オークがいるのが見える。


「さあ、始めるよ」

を合図に、近い弓オーク2体に炎の矢が刺さる。続いて遠方2体も倒れる。

壁の中のオークが慌て始めたが、最後は村全体に炎が降り注ぐ。

同時に村の少し離れた場所に待機していたライオネンさん達が一斉に突撃を始めた。


「さて、降りようか」

もう全て終わったかのような口調だ。


村道に戻った時、背後にいたミロが「来る!」と叫んだ。

僕たちが町から歩いてきた方向から斧を持ったオークがやって来た。1匹だけだ。

オークは走っているようだが、ミロやサファリの風メンバーの動きを見てたせいかスローモーションに見える。


僕はオークに向かって走りだす。勝てる気がした。

接近し、オークの胸部を真横に切り裂き、次に返し刀で切り口から心臓に向け剣を突き刺す。やった。

「お見事」ルマンダさんの声がした。

斬る直前、オークの目が泳いで、斧を振り上げたまま一瞬止まった。


ミロが僕の背後で[オークの気を逸らす何か]をしたんだろうと思う。なんか、そんな気配も感じた。

何をしたかまでは分からないが。

「ミロ、ありがとう」

ミロは軽く握った左手を顔の横に置き、招きポーズと小首傾げて微笑む。


「もう向こうも制圧してる頃だろう」

かつて村だった場所に向かった。あちこちから煙が上がっている。

ガナさんは水魔法が使えるようだ。火を消して回ってる。


「お疲れさん」

ルマンダさんがみんなに声をかける。

ケニーさんが僕を見て、

「シンヤ、どうしたッスか。血飛沫浴びてるじゃん」

「僕だけ綺麗なまま帰るの、恥ずかしくて」


ライオネンさんがルマンダさんに、

「派手にやったな」

「シンヤとミロが見てたからね。いつもより多めに降らせてみた」

「ガナが『ルマンダ殿、いつもよりハッスルしてるでござるな』と言ってたぞ」意外と声真似が上手い。



オークの死体を回収してスールの町に戻り、村を占有していたオークは全滅させたが、大規模な連隊の1部隊か先遣隊に過ぎない可能性があることをギルドに説明した。


「あれが1部族であれば、女子供がいても不思議じゃない。奴らはオスばかりだった」

ギルド長が「我々はどうしたらいいんでしょう?」と聞くが、

「我々にも判断できかねます」「一応、ジャハトの冒険者ギルドには報告はしますが、こちらからも対策を願い出てください」

ギルド長は頭を抱えた。


そんなギルド長の姿が父のイメージと重なる。

僕の故郷だったら、どうなるのだろう?


ふと、そう考え込んでいると、ルマンダさんが空間倉庫から何か取り出している。

大きなバケツだった。

「あんたら、服をここに入れな。オークの血は厄介だから乾き切る前に洗っちまうよ」

「ミロはこれを着て」と布切れをミロに放り投げた。

サファリの風の面々は服を脱ぎ、次々に大きなバケツに放り込む。僕も慌てて倣らう。

ミロはルマンダさんに頭から布を被せられ、頭だけを穴から出し首元を紐で止められてた。

テルテルボウズだ、という言葉が頭に浮かんだ。

テルテルボウズってなんだろう?


男性陣は全員パンツ一丁になった。

ガナさんがバケツを水で充める。ルマンダさんが何かの粉末を投入した。バケツの中の衣類がバケツの中で回り出し、渦を巻き始めた。時々渦の向きが変わる。

これも何処かで見た風景だなと感じた。


見る見る水が汚れだし、水を入れ替えて、これを繰り返す。

ついでに体に付いた汚れもお互いでチェックし合い、汚れを落とす。


最後は水だけを抜いて、衣類がバケツの中で飛び回る。近くにいると熱風が凄い。

「すごい」と思わず声が洩れる。

隣にいたケニーさんが「これがウチのチームの冒険後の恒例行事なんス」「血だらけでは馬車には乗れないッスからね」


乾燥した服を受け取り、馬車に乗り込む。

日が暮れる前にジャハトに戻れそうだ。


馬車の中。

「さて、今日の報酬配分について、馬車のチャーター代ほか諸々の経費を差っ引いたあと6等分で異論はないか?」

ライオネンさんが言う。

「ないでござる」

「もちろんッス」

「あの、6等分って、僕らも入ってるんですか?」

「もちろんだ」「一つのチームだ。倒した数は関係ない」

良いのだろうか、という思いはあるが、この人たちに辞退は通用しない気がする。一般的に『パーティ』という呼び方をする中、『チーム』と表現しているあたり、一時的な集まりとは結束の意識が違うのだろう。


「ありがとうございます」

「そうだ。遠慮なんかするなよ」

ライオネンさんに肩を叩かれる。痛い。

ミロを見ると目が合って苦笑いしてた。


「それと、もう一つ。ヒトでも獣人並みに走れるというのは本当ですか?」

「脚力だけでの勝負だと厳しいでござるな」「風魔法で追い風を起こして利用するでござる」

「しかし、どんなに速く動けても、戦闘技術が伴わないと単なる早死になる」


「そう言えば、風魔法で空を飛べる人もいるというのは聞いたことがあります」

「死亡理由で多いのは、その最中の落下事故」「飛行中にバランスを崩すとパニックを起こして、自身ではカバーできなくなるみたいね」


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