とあるフランス人プレイヤー

「はぁはぁ。何とか倒せたようですね……」


 強敵だった。

 それは、これまでとは違う扉で予想できた事だけど、やはりこれまでのモンスターとは一味違った。


「はぁはぁ。……ふぅぅぅ。これも、これまでの苦労とスキルのおかげですね」


 僕は母国フランスで、フェンシングのサーブルという競技をしている。

 年齢がまだ十八歳ということもあり、まだジュニアとしての活動だが将来はフランス代表として、オリンピックや世界選手権で活躍する事を期待されているのだ。


 そんな僕が連れて来られた、この妙な世界。

 ダンジョン攻略とかいう、僕にはよく理解できないけど掲示板を読む限り、知っている人は知っている空想の世界。

 その世界で意味がわからないまま、モンスターを倒す毎日だ。


 ギブアップ機能が実装された日は、それをするかどうかかなり悩んだ。

 あの、後悔という文字が無ければ、即ギブアップしていただろう。


 今でも、毎日のように悩んでいる。

 フェンシングの練習に遅れが出て、ライバルたちの後塵を拝すのではないかと。


 チュートリアルダンジョンで片手用西洋剣を手に入れたので、それを使っているがフェンシングとは流石に違う。

 まだ斬りがあるサーブルをしていたから、突きだけのフルーレやエペよりはよいが、それでも変な癖が付きそうで怖い。


 それでも、こちらに連れて来られた七百数十人の若いフランス人たちを見捨ててよいのかという問題もある。

 ギブアップしたとして、多数のフランス人がこちらへ残っていた場合に非難されないだろうか。


 スポーツ競技の国家代表は、純粋に実力だけで選ばれるわけではない。

 行動とか品位とかも、関係してくる場合があるのだ。

 それを考えると、安易にギブアップの道を選ぶ事はできない。


(……ファーストスキルも良かったし、暫くは続けるしかないか)


 僕が手に入れた最初のスキルオーブは、レベル七の物。

 中に封入されていたスキルは<攻撃力倍増>だった。

 正直、そこまで良い物とは思えなかったけど掲示板を読む限り、他のプレイヤーよりモンスターを倒す時間が短く思えた。

 つまり消費する体力も減り、戦闘回数を増やす事ができる。

 これは大きい。

 そのお陰か地下二階でオーブを二つ手に入れ、<筋力>LV1と<敏捷>LV1スキルを取得できた。


「少ないけど効果は確かにあるんですよね。これって、もしかして……」


 スポーツを専門にしていたからか、その辺りは敏感である。

 このスキルたちは、元の世界に戻れた時もそのままなのだろうか。

 だとすれば、ダンジョン攻略を続けていく意味が重要になってくる。


(続ける場合、問題は防御面か)


 チュートリアルダンジョンで武器は良い物が出た。

 その反動かは知らないが、防具に関しては掲示板の情報を見る限り最低ランクが多い。

 フェンシングの競技スタイルもあって、守りが難しく苦労しているのだ。

 今は<攻撃力倍増>スキルを生かして、攻め重視でモンスターからの攻撃回数を減らす戦法がメインである。


 もっとも、今回は苦労したが。


 攻撃力も防御力も、これまでのモンスターの中で最高値だったと思う。

 必死に攻撃を避け、隙を狙っては警戒しながら攻撃する。

 そのせいで戦闘が長時間掛かり、スタミナをかなり失ってしまった。


「……とりあえず、防具を何とかしたいところですが」


 今回の宝箱は良い防具が出るだろうか。

 これまでとは違う、宝箱の出現方法に期待しても良いだろう。


 現状、フランス人の攻略プレイヤーの中で先頭を走っているはず。

 これからも、先頭で未知の危険に対処していくつもりだ。

 だから誰か、僕にスキルオーブを譲ってくれないだろうか。

 僕は譲る気が一切無いから、無理なのはわかっているけどね。

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