第1話
「うっ、あぁ……。ん、んっ? ここ、どこだ?」
自室の布団に居たはずの俺だが、気づくと冷たい床の上に座っている。
周りを見渡すと、冷たい感じのよくわからない材質で、灰色の壁や床に天井が構成された八畳ぐらいの部屋だ。
天井高さは俺の自室と同じぐらいで、そこにLED照明らしき物が灯っている。
窓が一切無いため、光源はそこだけだ。
部屋の中には職員室にありそうな机と椅子が有り、机の上にはPCのディスプレイとキーボード、それにマウスが置いてある。
他にはマットレスに枕とタオルケットが置かれたパイプベッド、設備はそれだけだ。
壁には三つの室内ドアが有り、一応この部屋から出れるようだ。
もっとも、鍵が締まって開かない可能性もあるが。
服装も変わっている。
それなりの厚さの一枚布に頭を通す穴を開け、腰の辺りに紐を巻いてくくっているだけの衣装。
そのせいで肘から先は剥き出しだし、脇から脇腹に掛けても隙間がある。
足も剥き出しで、そもそも下着も無い。
靴は革っぽい材質のトングサンダルで、俺の中では原始人かという感想だ。
とにかく、知らない内に見知らぬ場所へ連れ去られた恐怖と不安を覚えていると、机の上のディスプレイが点灯する。
とりあえず、どうすればいいかわからない俺は、ディスプレイの表示を確認しようと椅子に座って机に向かった。
(右向きの三角が点滅している……。マウスを押せってことか)
置かれた安っぽいキーボードとマウスのうち、後者を手にすると左クリックをする。
すると、画面の表示が変わり、白地に黒文字の文章がずらずらと並び始めた。
「……読むしかないか」
今の状況が何なのか、その手掛かりが書いてないかと文章を読み始めた。
+++
「ふぅぅぅ」
一体、どれほどの時間が経ったのだろう。
首や肩が痛くなり、ぐりぐりと回しながら読み切った内容を思い出す。
(WEB小説でありそうな設定だな)
そうとしか思えない。
夢ではないのは、頬をつねったりして確認してある。
残念だが、当分はこの部屋で一人、生きていかねばならないようだ。
「別に一人はいいんだけど……」
元々、自分の時間が一番大切で他人に邪魔されたくない俺としては、孤独に関しては大丈夫だ。
問題は他のことに関してである。
(まずは部屋を確認するか)
椅子に座って机を向いている方向を、とりあえず南と仮定しよう。
東には、南を頭としてパイプベッドが置かれている。
そして、西の壁には二つのドア、北の壁には西の方に一つのドアがあった。
なお、ドアは金属製であり、窓が無いので外がどんな状態なのかはわからない。
「最初は一番南のドアを……」
椅子から立ち上がって移動し、ドアノブを掴む。
一度深呼吸をし、ドアノブを捻って押してみるがビクともしない。
(逆か……)
今度は引いてみると、簡単に開いていく。
一応、ドアの向こう側がどうなっているかわからないので、ゆっくりと少しだけ開き、隙間からあちらを覗き込んだ。
「……シャワー室か」
このシャワー室にも窓は無く、天井中心にLEDらしき照明、奥の片隅に換気扇と思われるものが付いている。
肝心のシャワーは普通の物で、シャワー以外には二つの蛇口があり、ハンドルには青と赤のマークが有ったので片方ずつ出るのだろう。
(ここはいいか。じゃ、隣はアレだな)
シャワー室のドアを閉め、右に移動して直ぐのドアの前に移動する。
普通に考えれば、ここはトイレであろう。
先ほどと同じようにドアノブを掴み、回して少しだけ引くとまたもや隙間から覗き込む。
「……まじか。和式じゃねえか……」
通っていた小学校の旧校舎が、この形式だった。
よく、学校の七不思議や怪談で舞台になったものだ。
それ以外にはトイレットペーパーが用意されているトイレットペーパーホルダーや、陶器でできた手洗い場所、後はシャワー室と同じように照明と換気扇だけだ。
「古臭いのに換気扇があるのは、窓が無いせいだな」
換気扇の存在は、臭いの問題に対して嬉しい。
そう思いつつ、残った最後のドアを見た。
(あの説明を信じる限り、あのドアの向こうも大丈夫なんだよな)
北側の壁にあるドアの前に立つと、右手でドアノブを掴む。
ゴクッと生唾を飲むと、ゆっくりとドアノブを回してドアを引いた。
だが、ドアは開かない。
ここは、向こうに押して開けるドアのようだ。
「ふぅ……」
軽く息を吐くと、押してドアを少しだけ開ける。
隙間から見える光景は、この部屋と同じような床と壁が照明で照らされていた。
そのまま少しずつ開けていき、最後には全開放する。
そこは元の部屋と同じような広さで、机やベッドが無い部屋だった。
代わりに北側の壁の半分を埋める金属製のデカい観音扉に、東側の壁一面には様々な種類や大きさの収納っぽい取っ手があった。
(ここか)
俺は東側の壁に近づき、胸の高さぐらいの横三十センチ縦二十センチぐらいの引き出し収納の取っ手を掴む。
慎重に引き出すと、中には水らしき透明な液体が入った五百ミリリットルのペットボトルが三本、更に透明な袋に入った白いブロック状の物が三個あるのが目に入った。
「これが無償支給の食料か。あのPCで読んだ通りということは……」
その体勢で北側のデカい扉を眺める。
あそこを開けるのは、まだ早い。
そこまで覚悟が決まっていない。
(とりあえず、これを持って元の部屋に戻ろう)
+++
部屋に戻ると、持ち帰ったペットボトル等を置こうと机に向かう。
そこで、二つの変化があることに気づいた。
一つ目はディスプレイ画面が変わり、左クリックを求める表示になってること。
もう一つは、そのディスプレイの前に複数のボタンがあるリモコンっぽい物体が転がっていることだ。
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