⑰ライカが友だちほしいってさ

「ねえ、ぼく、あれやってみたい!」


 その日、私とライカは◯witterのトレンドにあがっていたある企業勢の配信を見ながら、食後のまったりタイムを過ごしていた。ライカは温めた牛乳を飲みながら、目をキラキラさせて配信画面を見つめている。ナチュラルにマグカップを両手で抱えるように持ち、ふぅふぅしながら口に運ぶそのお子さましぐさ、いとあはれなり。


「あれ? 格付けチェックに興味が湧いたのかい?」


『VTuber格付けチェック~一流VTuberは誰だ!?~』と名付けられたその配信では、紳士然としたVTuberが目隠しをした状態で2種類の料理を食べ比べている。1つは高級品で1つはゲテモノ。どちらが上質なものか当てる企画のようだ。

 ……どっかで聞いたことがある内容のような気もするけど、昔からエンターテインメントの基本は模倣っていうしね。現に1万人を超える同時接続者を集めているし、企画としても大成功といっていいだろう。


『ふぅむ、やはりAが高級品ですね。素材本来の味がするんですよねぇ……。Bは香辛料がわざとらしくて、いかにも庶民が好みそうな薄っぺらさで……。いやはや、初っ端からこんな簡単な問題とは先が思いやられますよ?』

『おーっと! 三琴選手、犬用ジャーキーをうまそうに貪り食ってます! 奇跡のアホ舌です!』

『あ、こいつも犬舌だわ。映す価値なし行きね。』


 コメント

 ・腹こわさんといて

 ・アホ舌の極み

 ・↓もうすぐ消えます


「じゃなくて、コラボ配信! やってみたいのは! ……いや、ジャーキーっていうのもちょっと気になるけど。」

「ふむ、なるほど。そういうことか。」


 そういえばライカは、デビューしてからずっとソロ配信しかしていなかった。っていうかそもそも、友だちといえる友だちもいない気がする。たまーに同期の個人勢におはリプを送ってるのを見かけるくらい。まあ「異世界転生してきたガチの犬耳美少年です!」だってことが万が一にもリアバレするわけにもいかないから、人付き合いに慎重になるのは当然だけども。


 ソロ配信だけではどうしても活動内容が単調になりがちだし、コラボ配信によって普段は接点がない視聴者さんにも自分を知ってもらえる導線を作ることもできる。将来的に"伸びる"ことを意識しても、なによりライカ自身が興味を持っているのなら、いまコラボ配信を経験するのはプラスに働くことは間違いないだろう。


「こういうコラボする友だちって、みんなどうやって作ってるの?」

「うん? いろいろ方法はあるけども……。」


 VTuberがコラボ相手を探す方法は何種類かある。

 最もシンプルなのはTwitterで直接DMを送るというもの。「この人とこういう企画がやりたい!」といった具合に、コラボ内容まではっきり決まっているときにはこの手段を用いる。

 他によくあるのはVTuberの交流用Discordサーバーに参加するというもの。大きいサーバーでは三桁を超えるVTuberが所属していて、


【@everyone 9月22日20時~ このゲームでフルパで遊ぶコラボをしたいんだけど、誰か一緒にやってくれませんか!? 当方プラチナⅣです!】


 みたいな感じの募集がメンションつきでしばしば流れてくる、らしい。

 もっと大きいくくりだと、公募されている企画や大会を活用する(あるいは主催する)っていう方法もある。規模はまちまちなんだけど、大規模なものだと主催者による選考を突破しなければならないので、新人のライカが大規模なコラボに参加するのは現時点では厳しいかも。


 ―そして、これらの手段はライカにはまだ触らせていない。というのも、インターネッツにはいい人ばかりとは限らないからだ!!


 たとえばDMの場合はどうかというと、ライカのアカウントにDM通知が来たからと開いてみれば


『何歳ですか? いますぐ会いたいな♥♥♥ えちえちなのはこちら→(怪しいURLとセンシティブな写真)』


 こんなコテコテの胡散臭いスパムが日に何通も来る。流石にこんなのをライカに見せるわけにはいかないだろう? っていうか、万が一(イヤーン)な写真がわれらが無垢な王子さま―つまり、ライカのこと―の目にでも入ってしまったら、私はもう全てを滅する破壊の化身になってしまう。

 こういう怪しいリンクは踏んだが最後、アカウントを乗っ取られてしまったり、勝手にスパムツイートやDMを送られてしまうので絶対にクリックしちゃいけない。


 他には業者からのDMも頻繁に送られてくる。業者といってもその内容にはスパムまがいのものも多く、


「案件のご案内です! ぜひ配信で当社の新作アプリを遊んでみてください!(なお、謝礼につきましては当社サイトにてご紹介させていただくことで、◯◯さまの認知度アップに貢献させていただければと思います)」


なんてのはまだマシな方で、タチが悪いのだと「当事務所に所属して企業VTuberになりませんか!」といった内容の勧誘DMを送りつけ、不幸にも釣られてしまった新人VTuberに実現不可能な配信ノルマを課して違約金を請求したり、預り金としてお金を徴収してそのまま連絡が取れなくなるような悪徳業者だっているという。

 デビューしたばっかの新人Vtuberにも、こんなにDMって来るものなんだなぁ……正直ちょっと驚いた。さすがに、こんなあからさまなのに騙されたりカモられてる子はいないと思うけど。


 そんなわけで、DMの管理はいまのところ私がやっているし、同じ理由でDiscordもまだ触らせてない。でもライカがそういうなら……。

「誰かコラボしてみたい人でもいるの?」

「うん、このひと!」

 そう言ってライカは、スマホであるVTuberのツイートを見せてくれた。


【ゆる募】

 ども! 異世界からやってきたスゴ腕銃士! 銃堂(がんどう)レトでーっす!

 デビューしたばっかなんで気軽に誘える友だち募集中!

 得意ジャンルはFPSと雑談! うちとコラボしませんか!


 #VTuberと繋がりたい #新人Vtuber


 だぼだぼのパーカーを羽織った、小柄な少女の立ち絵も添えられている。にっと笑った口からのぞくサメのようにギザギザした歯が印象的で、FPS勢らしく二丁の小型銃を腰から提げている。3ヶ月ほど前にデビューしたらしく、登録者は900人ほど。フォロワー数もライカより少し多いくらいで、初コラボの相手としては悪くないかもしれない。


「ね、この人も異世界からやってきたんだって! 仲良くなれないかな!?」

「あはは……そこは流石にロールプレイだと思うけど。まあでも、興味があるならちょっとDMでも送ってみようか?」


 そのとき、手にしていたスマホの通知が鳴った。TwitterのDM? その差し出し人には……銃堂レトと書かれている。え、なんだろ? もしかして私の心の声聞かれてた!? ほんとに異世界人!? 恐る恐るDMを開いてみると……。


 銃堂レト:

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 →(あやしいURL)


「思いっきりスパム踏んでるこのひとーーー!!??」

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