第1話 丹波ちゃんと絹衣ちゃん、特殊能力がナチュラルで危険過ぎる
晴雪は夕食後は自室には戻らず、まっすぐお風呂場へ。
湯船に浸かっている最中だった。
「やっほー、晴雪お兄ちゃん♪」
「お邪魔するわね」
丹波ちゃんと絹衣ちゃんが堂々と入って来たのだ。
「ぅおわあああぁぁーっ!」
晴雪はびっくりして思わず仰け反る。もう少しで後ろのタイル壁に後頭部をぶつけるところだった。
「大丈夫だよ、晴雪お兄ちゃん。あたし水着だから」
「水着着けてるから全然問題ないでしょ?」
「いや、めっちゃあると思うけど……」
絹衣ちゃんはトロピカルな柄のビキニ、丹波ちゃんは可愛らしい恐竜柄のワンピース型水着だった。
「あたしと絹衣お姉ちゃんは、服装を自在に変化させられる能力持ってるんだ♪」
「お母様には見つからないように気を付けて来たから、安心してね」
「出来れば、部屋で待ってて欲しかったな」
「そんなこと言っちゃって、本当は嬉しいんでしょ?」
「そんなことないって。あの、気まずいから早く出て行って欲しいな」
「まあまあそう言わずに」
「晴雪お兄ちゃん、プール気分でいっしょにバスタイム楽しもう♪」
「おっ、俺、もう出るね」
晴雪はそそくさ湯船から上がり脱衣所へ。
それからすぐにこんな会話が。
「予想通りの反応だったわ。それにしてもこのお湯、ぬるいわね。お湯の温度は41.8度じゃないと」
「熱過ぎるよぉ~。41.2度が最適だよ」
「それじゃぬる過ぎよ」
いやいや、どっちも熱いだろ。
晴雪、呆れ顔で突っ込む。
パジャマに着替え終えたところで、
「晴雪くん、ぬるかったけどわりと良い湯加減だったわ」
「晴雪お兄ちゃん、生みの親なんだから恥ずかしがらなくても良かったのに。そもそもあたしと絹衣お姉ちゃんデザインする時まず素っ裸姿から描いてたでしょ」
絹衣ちゃんと丹波ちゃんが水着姿のまま上がってくる。
「そっ、それはそうだけど、絵だから」
晴雪は慌て気味に視線を逸らす。
「三次元化した私の素っ裸、見せたげよっか?」
絹衣ちゃんはふふっと微笑む。
「いや、いいから。あの、母さんは今、リビングにいるから見つからないように、そーっと俺の部屋に戻ってね」
晴雪は小声で伝える。
丹波ちゃんと絹衣ちゃんは、言う通りに無事戻ってくれた。
※
「うわっ、あっつ。暑過ぎる! 冷房切ったな。それにしてもなにこの暑さ。この暑さはやばい。冷房切ったくらいじゃあり得ないような暑さになってる」
晴雪が自室に戻ると、体感したことがないような暑さが襲って来た。
「室温を41.8度まで上げちゃった♪」
絹衣ちゃんはてへっと笑う。
確かにこの部屋の温度計がこの気温を表示していた。
「上げちゃったじゃないよ。これじゃ寝られないというか生命の危機だろ」
「ごめんね。海沿いの明石では絶対上がらないような気温を体験させたくて」
「そんな体験はいらないから」
「あたしと絹衣お姉ちゃんは周りの温度を最高気温の極値まで上げられる能力も持ってるんだよ。晴雪お兄ちゃん、暑かったら41.2度まで下げるよ」
丹波ちゃんは自慢げに言う。
「41.2度でも危険過ぎる暑さだから」
晴雪は呆れ顔。
「ちなみに私も丹波ちゃんも、最低気温の極値まで下げられる能力も使うことが出来るわ」
「それは勘弁して。体壊す」
ともあれ、絹衣ちゃんは暑さ能力を使うのを即座にやめてくれて、冷房を起動させると三〇分くらいで室温28度くらいまでは下がってくれた。
「そういえば、キッチンの前通った時に“静岡”茶のティーバッグなんかがあったのを見つけたんだけど、丹波の黒豆茶の方が絶対美味しいからねっ! 41.2℃で飲むのが一番美味しいのっ!」
丹波ちゃんは静岡を特に強調してぷんぷん顔で主張する。
「俺もそう思うよ」
晴雪がそう言うと、
「嬉しい♪ 晴雪お兄ちゃん大好き♪」
丹波ちゃんは満面の笑みを浮かべて喜んでくれた。
「ねえ晴雪くん、今日で夏期講習終わったんでしょ。明日は、私と暑いデートしようよ。どうせ彼女いないんでしょ?」
「たっ、確かにいないけど」
「晴雪お兄ちゃん、あたしともデートしよう♪ ダブル高気圧みたいにダブルデートだよ」
絹衣ちゃんと丹波ちゃんに見つめられ、
「わっ、分かった」
俺がキャラデザした子達が、現実世界に飛び出てくるだけでなく、デートまでしてくれるなんて、なんて良い子達なんだ。
晴雪、やや緊張気味に承諾するも、心の中では大喜びだ。
「ねえ晴雪お兄ちゃん、ちー〇んとく〇まる、どっちの方がかわいいと思う?」
「何だろう? それ。ちょっと調べてみるよ」
晴雪はスマホの画像検索で確認してみる。
どうやら、ちー〇んは丹波市、く〇まるは伊勢崎市のご当地キャラらしい。
「どっちもかわいいけど、どちらかというと、ちー〇んかなぁ」
晴雪がこう答えると、
「そう思うでしょ♪」
丹波ちゃんは満面の笑みへ。
「私はく〇まるの方が絶対かわいいと思うけどな」
絹衣ちゃんはちょっぴり悔しそうな表情へ。
俺も正直、く〇まるの方がかわいいかなっと思っちゃったけど。
晴雪、丹波ちゃんを喜ばせたくてお茶の質問と同様空気を読んであげた。
「ねえ晴雪お兄ちゃん、ゲームで遊んでいい?」
「うん、いいよ」
「やったぁ♪」
「このゲーム機は夏の暑さが大敵ね。41.8℃の場所でプレーしたらすぐに壊れちゃうわ。5℃から35℃の範囲でのプレー推奨してるからね」
「この部屋だと、冷暖房未使用でもその範囲内には収まってるな。明石は冬もそんなに最低気温下がらないから」
「明石は気候が穏やかだね。柏原は、冬の朝はすごく寒くなるよ。あっ、惜しい! もう少しで倒せそうだったのに」
興奮気味にコントローラを操作する丹波ちゃん、
「うわっ、また暑くなって来た」
すると室温がまた一気に上がり、41.2℃に。
冷房を付けているにも関わらず。
「ごめんね、晴雪お兄ちゃん。あたし興奮すると周りの温度上げちゃうの」
「いや、大丈夫だよ」
丹波ちゃんが冷静になると、室温はすぐに元通りに。
晴雪は机に向かい、夏休みの宿題を進めていく。
「晴雪くん、分からないところがあったら、私が協力するわ」
「それは悪いから、自力で頑張るよ」
「晴雪くんは、真面目な子ね」
そう言って絹衣ちゃんは頭をなでてくる。
「いや、それほどでもないよ」
晴雪、照れくさくて頬がほんのり赤くなってしまう。
まもなく日付が変わる頃。
「じゃあ俺、もう寝るね。おやすみ」
晴雪は二人に向かってこう伝えると電気を消してベッドに上がり、夏布団に潜り込んだ。
「晴雪お兄ちゃん、あたしと暑い夜を過ごそう」
「晴雪くん、いっしょに暑い夜を過ごしましょ♪」
直後に二人が両隣に寝転んでくる。
「あの、それは、ちょっと、まずいかな?」
「あたし晴雪お兄ちゃんといっしょに寝たいのに」
「私もー」
「ただでさえ暑いのに、余計暑いし、寝られないよ」
「ふふ。晴雪くん照れ屋さんね。分かったわ。離れてあげる」
「あたしが寝てる間にうっかり41.2℃まで上げちゃったら晴雪お兄ちゃん熱中症になっちゃうもんね。おやすみ晴雪お兄ちゃん」
「晴雪くん、おやすみ」
こうして丹波ちゃんと絹衣ちゃんはベッドから離れ、元のイラストへと戻ってくれた。
……あの子達、ひょっとしたら、幻覚かもしれないな。
晴雪はそう思い込むことにした。
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