言葉が怖くなっていった日々
最初に胸を刺したのは、ほんの短い一言だった。
「つまらない」
その二文字が、ぼくの文章を丸ごと否定する刃のように感じられた。
無数の「面白かったよ」「共感した」といった言葉に埋もれていたにもかかわらず、
たった一つの「つまらない」が、ぼくの内側を支配してしまった。
褒められた記憶よりも、貶された記憶の方が鮮明に焼き付く。
ぼくの脳は、救いを受け入れるよりも、傷を抱え込むようにできているらしい。
次第に、ぼくは言葉そのものが怖くなった。
褒め言葉でさえも、裏に皮肉が隠れているのではないかと疑う。
「才能がありますね」
その一言の奥に「けれど大成はしないだろう」という声が重なって聞こえる。
そんな妄想が続くうちに、タイムラインを眺めることすら苦痛になった。
他人の賛辞も、批判も、同じ重さで胸にのしかかる。
それらはやがて、文字であるはずの形を失い、ただの黒い染みのように目に焼き付く。
ぼくは文字に追われ、そして文字に押し潰されていた。
ノートを開けば、ペン先からは言葉が出ない。
頭の中にあるはずの文章も、外に出る瞬間に溶けてしまう。
まるで、書こうとするたび、見えない手が喉を締め上げるようだった。
そのとき、アオイの言葉がふと蘇った。
「ねえ、あなたは黙っていても生きていけるの?」
答えられなかったあの問いが、ぼくの心臓をゆっくりと締めつけていく。
黙ることも苦痛なら、言葉を吐き出すことも苦痛だ。
ぼくは逃げ場を失っていた。
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