消される言葉たち

ぼくは、よく言葉を消す。

書いては消し、また書いては消す。

まるで砂浜に文字を刻んで、波がさらっていくのを眺めているようなものだ。

いや、実際は眺めるまでもなく、自分の手で波を起こしている。


なぜだろう。

書きあげた文章が、自分の意図からほんの少しでもはみ出すと、

それが誰かの目に映ったときの顔を想像してしまうのだ。

眉をひそめられるのか、鼻で笑われるのか。

そのどちらも想像の中で生々しく、ぼくの指先を止める。


SNSに投稿したある夜、

コメント欄にひとつだけ「よく分からない」という文字が落ちていた。

それは批判ですらない、ただの感想の一種だろう。

けれどもぼくは、氷水をかけられたような心地になった。

そして、その投稿を削除した。

翌朝になっても、もう復元する気にはなれなかった。


消したあとの空白は、意外にも清々しかった。

まるで部屋の隅に溜まった埃を掃き出したあとのようだ。

けれどもそれは長く続かない。

消してしまった文の中に、二度と同じようには書けない感情があったと気づくのは、

いつも削除から数日後だ。


「消したもののほうが、残っている」

そんな奇妙な逆転が、ぼくの中で繰り返される。

そして、ぼくはまた新しい言葉を書きはじめる。

消されるかもしれない運命を知りながら

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