Episode 32 :【英雄への序章】

「あはは……にしても、『世界を変える』……とは、中々大きく出たもんやね~。

 具体的には、どういうプランをお持ちなん?

 あ、これはウチの個人的な興味やから、無理に話すことはないけど……」

「……いや……同じ組織に所属しょぞくするのなら、いずれは早い段階で、話しておくべきことだとは、俺も思っていたので……」

 ――鳳紫ほむらさんの、その飾らない人柄の影響、だろうか。


 気付けば俺は、少しずつ、自分の目標を語り始めた。


『この世界を、根底からくつがえす』という、大それた目的を、如何様いかようにして果たそうとしているのか。


 まずは、俺みずからの戦闘的優位性を証明する。


 そして、それをアピールポイントにして、〝《ヒューマネスト》の撃退げきたい鎮圧ちんあつ〟が主目的の組織に、売り込みをける。


 それが、最初の目標だったからだ。


 だからこうして、雨津星あまつぼしさんを通して、〈A.E.G.I.Sイージス〉という組織に加入する――その前段階まで来た時点で、目標はすでに達成できたと言ってもいいだろう。


 あとは〈A.E.G.I.S〉で、出来る限り短期間のうちに、『《ヒューマネスト》を撃退・鎮圧し、〈御門みかど大江戸おおえど〉の治安維持に貢献した』という功績を残していく。


 そうすれば、俺に対する評価は、着実に上がっていき、次第に俺という存在を無視できなくなっていく。


 その、揺るぎようのない地位を手に入れてこそ、初めて、『〝〈アフターエリア〉の環境改善〟や、〝トガビト(〈アフターエリア〉に住むことをいられた人間)の生活支援の、さらなる充実化〟』……という、俺の意見や主義主張を、相手に承諾させられるようになる。


 だからこそ俺は、『単槍匹馬たんそうひつばで《怪物ヒューマネスト》を撃破した』という、確固たる宣伝材料を手に入れられるように、斎賀さいが先生の力を借りて、己を鍛え上げ続けていた――。


 そんな道筋を、俺は自分なりに、必死に考えてきた。


「――自分でも、浅慮せんりょ無謀むぼうな……行き当たりばったりな計画プランであることは、自覚しています。

 それに、〝世界を変える〟なんて大層なことを言ったって、子供一人ができることなんて、所詮しょせんたかが知れているということも……。

 それでも……何も行動しない言い訳だけは、したくないって……そう言い聞かせて、今日まで生きてきました」

「……そうだったんやね……ごめんね、さっきは茶化すようなこと言い方してもうて……」


 鳳紫さんの口調が、少しだけ柔らかくなった。


「ウチは、キミのその覚悟と、それを実際に行動に移せるパワーを、笑ったりなんかしないよ。

 むしろ、君みたいな若い子に、そこまでの重荷を背負わせ続けていた……そんな、情けない大人でしかない自分を、恥じるばかりやわ……」

「ああ……君の痛いくらい真っ直ぐな瞳は、自分の汚い部分を見透かされているようで、思わず身が引き締まる。

 大人になると、先送り主義というタチの悪い病気を、こじらせたまま生きてしまうからな」


 雨津星さんが苦々しい表情と声色のまま、ぎこちなく笑う。


 それにつられるように、運転席の鳳紫さんも苦笑する。


 しかし次の瞬間、雨津星さんは真剣な顔つきと目つきで、俺の顔を真正面に見据みすえる。


「だからこそ、気が早い話かもしれないが……君が本気で、少しでもこの世界を変えていくというのなら、俺は最大限尽力じんりょくするつもりだ。

 そして、君が世界を救う英雄となるその日まで、全力を掛けて、君を支えると誓う。

 これは、今まで見て見ぬふりをし続けてきた、俺なりの……せめてものケジメだ」


 そう力強く宣言する雨津星さん。


 そんな彼に、俺は次第に――


 雨津星さんの言葉が、嫌だったわけじゃない。


 むしろ、彼にそう言ってもらえて、どこか安心した気持ちになれた自分がいる。


 しかしそれでも、心中に渦巻く戸惑いや疑問を、払拭ふっしょくできない。


 その理由は――。


「……どうして……まだ出会って間もない、俺のために、そこまで……」


 思わず口に出してしまった言葉を、今度は鳳紫さんが、ニカッと快活な笑みを浮かべて、答える。


「ナッチャン。人が人を好きになったり、信じたりするのに、理由や時間の長さなんて、関係ないもんやで?」


 鳳紫さんが、そのまま優しい声色で、言葉を続ける。


「事実、ウチはキミのこと、すでにちょっと気に入ってるもん。

 キミみたいな真面目くんは、年上のお姉さんに、結構モテるもんなんやで~?」


 ……あまりに真っ直ぐな言葉に、なんて返せばいいのか、分からない。


 だから俺は、「……ありがとう、ございます」と、可愛くない返事の後に、そっぽを向く。


 そして再び、窓の景色を眺めていた――。


「――!! あいつは……!!」


 その時だった。


 午前10時を知らせる時報のメロディが流れたかと思えば、高層ビルのあちこちに表示されている電子パネルが突然、同じ映像に切り替わる。


 俺は、その映像に映し出された人物を見て、思わず息を呑む。


 宝飾品とステンドグラスで作られたような、禍々まがまがしいよろい姿すがた


 見間違えるはずがない。あの〝鎧野郎〟は、間違いなく……!!


----------

《次回予告》


『さあ、今日も一日、頑張りましょう!

 これすなわち、努力は報われ、いずれ花咲く!』

《……何が……何が、「努力は報われ、いずれ花咲く」だ。》

「……あの鎧野郎。あいつは、いったい何者ですか?」


次回――Episode 33 :【彼の者に蘇る、義憤いかり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る