第7話→天界の懇親会
天界の中央に浮かぶ光の殿堂。年に一度、全ての神格が顔をそろえる“懇親会”と呼ばれる場だ。
創造神シンは、この手の集まりが嫌いだった。
無駄に着飾った神々の自慢話と、過剰にテンションの高い新人たち。静かに魂を観察していたいシンにとっては、息が詰まる空間でしかない。
「……疲れる」
ぼそりと呟いて、シンは会場の片隅、透明な空に面した縁の席に腰を下ろした。
グラスの中には、誰が用意したのか薄紅色の神果酒が注がれている。口をつける気にもなれず、ただ空を眺める。
「よぉ、相変わらず根暗な面してんな、シン」
馴染みのある、ざらついた声が耳に入った。
顔を上げると、そこには天界一ラフな格好を貫く天使——通称“おっさん”が、竹のうちわを仰ぎながら立っていた。
「……来てたのか、おっさん」
「まぁな。最近はソウの坊主のとこで暇潰ししてる。あっちもあっちで、まぁ面白ぇ」
「君が面白いと言うなら……だいたい察しがつく」
シンが肩をすくめると、おっさんはげらげら笑いながら隣に座った。
「どうだ。転生案、最近の当たりは」
「一人、な。45歳の男。地味で、平凡で、でも願いは……純粋だった。面白かったよ」
「へぇ。そりゃまた意外だな」
「逆に……次は救いようがないかもしれない。欲望に塗れた転生者だった。たぶん、何も学ばない」
おっさんはうなり声をあげた。
「まぁ、あるよな。どんなチート渡そうが、自分の足で立たねぇ奴は立たねぇ」
「そうなんだ。だから考える。創造とは、幸せを与える行為じゃない。可能性を“開くだけ”だと。……俺たちは扉を作るにすぎない」
おっさんは少しだけ目を細めた。
「ずいぶん老け込んだ言い方だな。……でも、俺は好きだぜ、そういうの」
「……君は、どうだ。新人とはうまくやってるのか」
「坊主は真面目すぎてな。あれで神様やってくのは、正直しんどいと思うぜ」
「……少しだけ、彼に会ってみたい気もする」
すると、背後から若い声がした。
「……あの、失礼します。あなたが“シン様”ですか?」
振り返ると、まだ神格の若い創造神がこちらを見ていた。
長い前髪を耳にかけた、やや緊張した面持ちの青年——彼がソウだった。
「噂はかねがね……。おっさんから、いつも聞かされておりまして」
「それは光栄だ。……君がソウか」
「はい。……まだ未熟者ですが、学ばせていただきたいことがたくさんあります」
ソウの言葉は真っ直ぐだった。若い創造神らしい情熱と、揺るぎない意志を持っている。
「……いい目をしている。君なら、大丈夫だ」
「ありがとうございます……!」
ぺこりと深く頭を下げてソウは去っていった。
おっさんは酒をぐいっと飲み干すと、にやりと笑った。
「な? 坊主、悪くねぇだろ」
「……あぁ。少し、羨ましいと思った」
「だったら、お前も初心に戻れ。俺たち、最初は楽しかったろ?」
シンは、微かに笑った。
——創造とは、苦くも、甘い。
けれど、だからこそやめられない。
静かな天界の風が、二人のベテランをやさしく包んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます