第5話 防具で制御する魔核

「これが……魔核本体……」


水晶のように輝く中枢部──そこには大小無数の“魔力結晶”が螺旋状に組み合わされ、薄い水の膜に覆われていた。


「しかし……」


ミリアが顔をしかめる。


「……中心部、溶けかかってる。魔力の流れが安定しないのは、ここに原因がある。制御コアの崩壊……」


「魔力伝導体が過熱して、“相転移”しちゃってるな」


レクスは手袋越しにそっと触れた。


「コアの温度を保てれば、回路の再構築はできる。でも……冷却機能が壊れてる」


「魔術で冷やす?」


「だめだ。術式魔法は“流動”を起こす。ここでそれをやると、結晶が共振して爆発する」


──魔核とは、あまりに繊細な仕組みだった。


ほんの数度の温度変化が、全体を揺るがす。


「だったら……」


レクスは自分の背中から、ごそごそと何かを取り出した。


──それは、防具だった。

冒険者用の、ごく普通の──「極寒地域対応・内熱遮断型」プレートジャケット。


「え、ちょ、ちょっと待って! それ装備するんじゃないの?」


「違う。“装備する”んじゃない、“かぶせる”んだ」


レクスは手際よく、防具の内側に冷却用の魔石パックを詰め始めた。


「この防具、元々“体温を通さない”ために設計されてる。つまり、“熱伝導遮断”と“魔力反射”の二重構造」


「それを……魔核に?」


「そう。溶けかかってるコアを、物理的に“くるんで”やる。温度を外気に逃がさず、内部の魔力流も抑えて、結晶の崩壊を防ぐ」


「まるで……魔核を“人”として扱ってるみたい」


「防具ってのは、本来そういうもんだろ? 何か大事なものを、守るためのものだ」


レクスは、そっとコアの上にジャケットを乗せる。まるで、冷えた子供に毛布をかけるように──


「おい、ミリア。魔力を一滴だけ送ってくれ。“再起動用”の点火信号になるはずだ」


「……了解」


ミリアは慎重に指先から、光の粒を一滴、魔核の周囲に落とした。


──カチ、カチッ。


鈍く乾いた音がして、魔核の内部が明滅を始める。


そして──


ごぉぉぉ……ん……んん……


低いうなりと共に、周囲の水路がわずかに震えた。


「……流れた!」


ミリアが歓声を上げる。

長らく沈黙していた町の水脈が、再び動き出したのだ。


レクスは、魔核にそっと手を添える。


「“防具”が、町を守ったんだ」


「武器じゃない。魔法でもない。……防具が」


ふたりはゆっくりと通路を引き返す。


行きにすれ違った苔ナメクジが、今度は水の上を滑るように動いていた。


「水が戻ったことで、生態系も回復してる……」


「敵と思ったものが、“順応者”だったなんてな」


レクスは空を見上げた──地上へと続く階段の先、噴水の音が、かすかに聞こえる。


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