第二集:食堂の騒動、光る銀のスプーン
翌日、アリアは子猫をコートの中に隠して授業に出席した。子猫はアリアの感情と共鳴するため、彼女が不安や緊張を感じると、コートの隙間から微かに光を漏らす。授業中、先生の厳しい質問にアリアが思わず息をのむたびに、子猫は震えるように光を放っていた。
その様子を、隣の席に座る少女、ルナは不思議そうに見ていた。ルナは明るく社交的で、学院の人気者だ。彼女は、いつも一人でいるアリアが、どこか孤独を抱えていることを知っていた。
「ねぇ、アリア。さっきからコートの中、光ってるけど、何飼ってるの?猫?」
ルナが屈託のない笑顔で尋ねてきた。アリアは驚いて、慌てて口ごもる。「な、何も……ただの……魔導具よ」
「ふーん、秘密なんだ。なら、無理に聞かないけど……でも、なんだかすごく大切そうに見えるな。また何か困ったことがあったら、いつでも私に言ってね!」
ルナの言葉は、まるで爽やかな風のように、アリアの閉ざされた心に吹き込んできた。アリアは、ルナの純粋な優しさに、心を温かくした。
昼休み、アリアは一人、食堂の隅で食事をとっていた。彼女は、皆が当たり前のように楽しんでいる喧騒や笑い声に、どうにも馴染めなかった。子猫はテーブルの下で、アリアの不安な気持ちに寄り添うように、静かに身を寄せていた。
その時、一人の上級生が、アリアの席に近づいてきた。
「おい、お前。さっきから魔力が不安定だぞ。学院の秩序を乱すような存在は、ここにいるべきじゃない」
振り返ると、そこに立っていたのはサイラスだった。学院のエリートであり、生徒会長を務める完璧主義者だ。彼の鋭い視線は、アリアのコートに隠された子猫の存在を、見抜いているかのようだった。
「君の力は、あまりにも制御不能だ。その才能が、いずれ学院全体を巻き込む悲劇を招くことになる」
サイラスの言葉は、過去に彼女を傷つけてきた人々の言葉と重なった。アリアは、再び自分の力が怖いと感じ、思わず席を立ち上がった。その瞬間、テーブルに置いていた銀のスプーンが、アリアの心に共鳴して、微かに光を放ち始めた。
食堂の喧騒が、一瞬にして静まり返る。皆の視線が、アリアと、光るスプーンに集中した。
「な、なんだあれは!?」
「アリア、あれは……!?」
ルナも驚きに目を丸くした。サイラスも、スプーンが放つ、古く、そして純粋な魔力の光に、目を見開いた。
アリアは、スプーンが放つ「本質の囁き」を捉えた。それは、このスプーンに込められた、料理人の「心を込めて作った」という強い想いだった。アリアは、その想いに共鳴して、無意識にスプーンの持つ魔力を引き出してしまったのだ。
「ご、ごめんなさい……!」
アリアは、慌てて食堂を飛び出した。サイラスは、アリアの後ろ姿をじっと見つめていた。彼の表情は、軽蔑や怒りではなく、深い戸惑いに満ちていた。
「あの娘の力は、ただの暴走じゃない……。対象の本質を読み取り、それを増幅させる……。まるで、古代の伝説に伝わる共鳴魔法……」
サイラスの言葉は、誰も聞いていなかった。しかし、その言葉は、アリアの才能が、単なる危険な力ではなく、世界の秘密へと繋がる、特別なものであることを示していた。
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