星界の紋章の継承者
Juyou
第一集:星界の紋章の継承者
アストラル魔法学院の図書館。巨大な窓から差し込む陽光が、埃っぽい空気の中で幾筋もの金色の光線を織りなしていた。ここは、アリアにとって最も安らげる場所だった。彼女は今年二年生になったばかりだが、入学以来、常に一人で過ごしていた。それは彼女が人と交流を望まないからではなく、彼女が生まれ持った「才能」が、周囲との間に見えない壁を作っていたからだ。
彼女には、魔力の「光」が見え、物の「本質的な囁き」が聞こえる。他の生徒にとって魔法とは、呪文や符文を通じて制御するエネルギーだが、アリアにとって魔法は生き生きとして、感情に満ちた存在だった。このユニークな知覚能力は、彼女が授業で最も深遠な魔法理論をいとも簡単に理解する一方で、他の生徒のように型にはまった方法で魔法を使うことができず、「協調性のない変わり者」と見なされ、からかわれてきた。いつしか、彼女は自身の力と共に、図書館の書物の山に身を隠すようになった。
その日、アリアはいつものように、禁書区域で自らの能力を解き明かす手がかりを探していた。彼女の視線は、簡素な表紙ながら微かな魔力の光を放つ古文書に引き寄せられた。その古文書に描かれた、見慣れない神秘的な紋様に指が触れた瞬間、胸に灼熱の光が迸った。
その力はあまりにも膨大で、まるで彼女の体を八つ裂きにするかのようだった。アリアの心臓は激しく脈打ち、体から溢れ出す魔力は制御不能なまでに暴走し始める。彼女は慌てて周囲を見渡したが、この体内で起こる魔力嵐に気づく者は誰もいなかった。彼女の視界には、無数の魔力粒が吹雪のように舞い、その狂気に満ちた悲鳴すら聞こえるようだった。
意識がこの力に飲み込まれそうになったその時、暖かく柔らかな光が、まるで命を持っているかのように、彼女の混乱した魔力にそっと触れた。その光は、母親の腕のように、アリアの心の奥底にある恐怖を静めていった。光が収束すると、そこには一匹の小さな子猫がいた。
子猫の毛並みは星屑のように微かに輝き、瞳は透き通った水色をしている。額には、アリアの胸に輝く光の紋章——星界の紋章——と完全に一致する神秘的な模様が宿っていた。子猫は、アリアの心と共鳴するように優しく「ミャー」と鳴いた。その声は、アリアの心の奥底に直接響き、彼女の不安を鎮めていく。
「あなた、は…私…?」
アリアは震える手で子猫の体を優しく撫でた。子猫は嬉しそうに喉を鳴らし、親しげにアリアの肩に飛び乗った。その瞬間、アリアの胸の星界の紋章が再び輝き、暴走していた魔力は、子猫の出現とともに奇跡的に完全に安定した。
アリアは、この子猫がただの召喚獣ではないと直感した。それは彼女の「共鳴召喚」によって、彼女の心の一番純粋な光が形になったものだった。その存在は、彼女の強大でありながら制御しにくい魔力を、バランスさせるために生まれたかのようだった。
彼女は、この子猫が、自身の力と向き合い、孤独を打ち破るための最初の一歩になると感じた。
しかし、その頃、学院の地下深く、闇の魔法で封印された密室では、ある古の結社が人知れず儀式を執り行っていた。密室の中央にある石板の上で、封印されていた混沌の紋様が、微かに震え始める。結社の首領である黒衣の男は、ゆっくりと顔を上げ、その瞳に冷酷な光を宿した。
「ついに…星界の紋章の継承者が、現れたか」
彼は、執着と狂気に満ちた声で呟いた。アリアの運命は、この瞬間から、世界に秘された古の秘密と密接に絡み合っていく。そして、彼女はまだ知らない。この、自分に安らぎをもたらしたはずの力が、同時に彼女を、もう後戻りできない運命へと導いていくことを。
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