第29話 対立と火種
「驚いたな …… 」
「これ、戦争に為りませんか?」
幕僚長の呟きに諏訪子が応える
「陛下自らが日本を神国へ復帰させると宣言され、暫定総理代行が、拘留中とは言え自衛隊のトップと有っては、軍国主義への復古だと騒ぎ立てるでしょうね …… 」
それだけでは無い
キリスト教は一神教であり、ヨハネの黙示録では他の神を認めないとされる一方、カトリックは歴史的にも他の宗教との対話に寛容で、日本神道も「自然崇拝」として受け入れられる
バチカンはローマ法王の意向として、ヤトを神が遣わした「天使」として認めようと言い出して居た
「我々は主がお造りに為られた創造物に対し、保護し管理する責任を負って居るのです。きっとこれも主のご意思の一つの現れでしょう」
ローマ法王は天照大御神を神と認定こそしないものの、環境汚染に依る人類の破滅から人間を守るのは、神に与えられた使命であると断定し、ヤトと諏訪子の環境訴求を概ね擁護する立場を表明した
そして、イスラム教もまた唯一神を絶対とする教義であり、太陽神である天照大御神も、その神使であるヤトの事も決して受け入れられるものでは無かった
イスラム教そのものの最高指導者は存在しないが、終末の救世主マフディの再臨を信じる最大宗派であるシーア派の最高指導者ホメイニは、ヤトの主張をアッラーの意思に沿うものであるとし、「ヤトはアッラーの神使では無いが、その主張は正義の道を示すものである」として、バチカン同様に国連のデータ改竄を追求、環境保全の為に協力を申し出た
「八百万の神々は文化として尊重するが、アッラー以外の神性は認められない」
だがイスラム教も一枚岩では無い
スンニ派は多神教の日本神道を「邪教」であると糾弾し、一切の協力も交渉も否定して来た
そしてキリスト教、イスラム教と聖地を共にするユダヤ教もまたヤハウェを絶対とする一神教であった
改革派はヤトの出現を巡る天皇陛下の主張に対し、神国復帰は軍国主義への回帰では無いかと危惧しながらも、環境問題の解決に向けては協力を模索、日本への警戒感を主張する正統派は対立するが、ネタニヤフ首相はOPEC+などを通じ協力を表明した
「神」に関する論議は宗教関係だけに留まらない
トランプ大統領はグローバル経済を否定しては国際社会が成り立たないと言い、更に日本の右傾化、軍国主義の復活を危険であるとし、キリスト教の保守派と歩調を合わせ、天皇の政治への介入を「嘗ての戦勝国」として到底容認出来ないと主張した
一時期トランプと歩調を合わせたイーロン ・ マスクも資本家として会議に参加していた
彼は経済を停滞させる処か、環境保全を更なるビジネスチャンスと捉えXへ投稿、神のDNA解析を自分が行うプロジェクトを立ち上げながらも、同様に日本の軍国化に警戒感を露わにする
「これ、日にちが経つにつれ、日本が孤立化しちゃうんじゃ無い?」
「ヤト君が現れただけでも大騒ぎだったのに、天照大御神の介入だなんて物理学の限界を突破しとる!アインシュタインもシュレーディンガーもフロイトも、まさかこんな事態は想定外だろうな!」
日下部は神の実在に浮かれている
「神の警告を蔑ろにしようとは、何と不敬な … 」
現状、諏訪子とヤト達は、マスコミや他国の襲撃から護る為の策として自衛隊駐屯地に保護されている立場だったが、世龍乱の目には国際会議の様子は天照大御神を馬鹿にし、否定する反対意見処か、金儲けのチャンスと捉える等言語道断、到底看過出来る話しでは無かった
「彼奴等は何処に居る!?天照大御神のみならず、神子である天皇まで侮辱するとは許せぬ!」
天皇陛下は、日本を神国へと軌道修正すれば、この様な反発を買う事は解っていた筈だ
それでも天照大御神からの御言葉を真摯に受け止め、己が為すべき選択をしたのだろう
徳仁天皇は政治家では無いが、決して暗愚では無かった
日本政府が東日本大震災の時に、原子力発電所の脆弱性に危機感を顕にした事に付け込んだ「再生可能エネルギー」の推進は「SDGs」と言う横文字が示す通り、外国資本が日本を食い物にする為に仕組まれた国家ぐるみの詐欺であった
政府が主張する「安価」でも「安全」でも「環境に優しく」すら無いまやかしに過ぎなかったのである
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