第5話 オニギリ
佐伯と東雲の両名は車から降りると家の玄関から声を掛ける
「御免下さい、どなたかお見えですか?」
ややあって諏訪子が玄関先に出て来た
「あら、ご苦労様です。何かご用ですか?」
「この集落は全戸避難済みだった筈なのですが」
「都会じゃ生きて行くのも難しいから、祖父の家へ疎開して来たんですけど …… 」
「良い匂いですね♡処で、どちらから?」
「東京ですけど … 」
「ここら一帯はドラゴンの目撃例が多く、避難準備勧告が出されていますので、残念ですが来週には避難命令に変わると思います」
実は、そのドラゴンに会いたくて来たのだと言ったらどんな反応を返すのだろうか …
「そうなんですか?残念です。でもガソリンももう心許なくて …… 」
「スポーツスター良いですね!ガソリンってまだ手に入るんですか?」
「麓の町で¥1,000/Lでした」
「げっ、聞きましたか二尉?」
「ドラゴンに襲われるんじゃないかと、海運も停まってるからな … その内電気も供給不足に陥るんじゃ無いかな」
「タンクローリーが来ないから休業するって言ってましたよ」
軽油が無くなれば、自衛隊車輌も活動出来なくなる
「あのっ、でもドラゴンによる被害って、航路妨害行為だけで、特別何かを破壊したとか誰かを殺したとかじゃ無いんですよね?」
実際には日本経済の破綻に依り、暴動で商店が破壊されたり自殺者が急増していたが、それは人間側の都合による副次的な被害である
「そう言った二次災害も含めると、決して無害とは言い切れませんね」
「ぐきゅるるううぅぅ〜〜っ」
「あっ、すみません!」
話しの腰を折る様に、佐伯の腹の虫が盛大に空腹を訴えた
「味噌の匂いがあんまり旨そうで …… つい」
クスッ
「良い時間ですし、良かったらご一緒にどうですか?」
「いえ、我々は任務が有りますので … 」
「良いんですかっ!?」
東雲が断ろうとしたが、腹が減った佐伯が食い付いた
「おい佐伯!」
「良いじゃ無いですか二尉?せっかく誘って下さってるんですから!」
佐伯はそう言うと、勝手に土間に入り玄関框に腰掛けてヘルメットを外してしまう
「この馬鹿者!立て、帰隊するぞ」
「えぇ〜レーション食い飽きたっすよ、味噌汁食べた〜い!」
「えっ、レーション有るんですか?」
鰹節の味噌玉を包んだ握り飯と沢庵と戻した白菜と切り干し大根の味噌汁をお盆に載せて持ってきた諏訪子が、佐伯の言葉に反応する
「そうだ、レーションとこの飯とトレードって事でどうです?」
自分の背嚢からポウチ入りの
「馬鹿野郎!我々自衛隊は食料に困窮する民間人に、備蓄を提供すべしと通達が有っただろ!」
「そんな事言ったって、俺達だって偶には温かいメシが食いたいっすよ、旨い!このオニギリ」
「レーションだって温めれば良いだろうが」
「やだなぁ、違いますよ二尉。こう言う真心の籠もった温かいオモテナシって事ですよ、ね♡お嬢さん」
「ヤダもう、お嬢さんだなんて♪」
アラサー独身の諏訪子は照れ隠しに佐伯の背中を叩く
「 …… きゅううぅ〜〜」
その時、隣の部屋からお腹の虫が鳴く音が響く
「おや、他にも誰か?」
東雲は玄関先に他に履物が無い事に気付いた
「あっ、子供が寝てて … 目が覚めたのかしら?」
「えっ。お子さんみえるんですか?」
「あ、いえ、ちょっと …… 」
襖の隙間から、小さな目が此方を伺っているのが見えた
「お腹が空いたのね、こっちにいらっしゃい」
謎の少女は暫く見詰めたままだったが、再びお腹が可愛らしく鳴る
「くううぅぅ〜」
目はオニギリに釘付けだ
勢い良く襖を開けると、少女は佐伯の隣に飛び込んで来てお盆の上のオニギリを手に取ると、無心にむしゃぶりついた
「おい …… コイツ!?」
「人間 …… じゃ無い?」
佐伯も東雲も、少女の頭に生えた角を凝視している
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