第4話 捜索


 家の中には野菜も味噌も無かった

 何年も誰も住んでいないのだから当然だ


 諏訪子は自分のバッグからビニール袋に詰めた米と乾燥野菜を取り出し、井戸で汲んだ水を沸かして夕食の支度を始める


 納屋の奥には薪が蓄えられたままだったので、竈で火を起こし、洗った鍋でご飯を炊く


 兎に角、都会では食料を手に入れるのは困難だった

 航空路の全面閉鎖に伴い、海運もいつ何時ドラゴンに襲われるか判らない為に、石油、天然ガス、食料の輸入も止まってしまった

 電気以外のインフラは5日目に維持不能に陥り停止した


 東京を出る時に未だ映っていたTVでは「ドラゴンショック」と言う言葉が飛び交い、政府の無能ぶりを批判するコメントが目立った


 もし日本の閉鎖が1ヶ月続いた場合の経済損失は50兆円を超える試算が提示され、輸出入が止まった日本は企業の倒産に伴う失業者が溢れた


 中小企業の倒産率は70%を超え、内部留保を蓄えていた大企業も、その殆どが取り引き自体が成り立たず日本経済は完全停止に追い込まれる


 ここに至り、東京への一極集中が完全に裏目に出ていた


 株価だけで無く、円安も歯止めがかからず遂には1ドル320円を超える


 失業者は全国で推定2,000万人を超えて、その日の食料を求めて各地で暴動が起きている

 移民政策で受け入れた外国人や、帰るに帰れなくなった外国人も一緒になって略奪行為に走った為に排外主義が台頭し、全国あちらこちらで日本人対外国人の争いが過激化し始めた


 怪我をしても、薬剤の供給も止まり医療サービスもいつ停止するか時間の問題である


 不安要素ばかりが先行し、議事堂や首相官邸前では連日、数万人規模のデモが行われ、一部過激な暴徒が銃撃や爆発物まで持ち出す騒ぎとなり、とうとう自衛隊が治安維持活動に駆り出される始末と成った


 そうすると、批判の矛先は政府から現場の自衛隊そのものに波及し、スクランブル発進50回で4億円、全国展開させた自衛隊の活動費は武器調達費を除けば、既に年間予算をオーバーしていた


 何とか大規模停電だけは免れた社会で、SNSでは#首相辞任#政権交代#自衛隊税金無駄と言ったネガティブキャンペーンが炎上する


「東京から大阪にかけて、都市部を脱出しようとする人間で交通機関もパニック、何より数千万人もの避難民の受け入れ先が無い …… かぁ」


 志那は戦略的に日本に帰化させた志那人も含め、数百万に及ぶ観光客や留学生の一時本国避難の為の大型船を派遣、アメリカも在日米軍維持の為に輸送艦を派遣したが、EWAXもF-22もイージス艦もドラゴンを視認は出来てもレーダーで捕捉出来ずに、あらゆる最新兵器が封じられていた


「ドラゴンの奴、ミノフスキー粒子でも撒き散らしながら飛んでるんですかね?」


「あ?それガン◯ムだろうが!任務中にアニメの話しなんかしてんじゃ無えよ」


「アニメより非現実的なドラゴンのお陰で日本社会が壊滅的被害受けてるのに、この期に及んでロマンを否定するなんてオッサン臭っ!」


 コアでマニアックな話題にガ◯ダムと言い当てる東雲二尉に佐伯二曹が突っ込む


「確かレーダー探査を無効化するお陰で、有視界戦闘が主に為るんだっけっか?おっ、そこ右だ」

 マップを確認した東雲の指示で、佐伯が高機動車のハンドルを回す


 避難準備区域に新たに民間人が入ったと聞いて、確認しに来たのだ


 情報では既に全住民が避難済みの筈であった


「あそこ、煙が出てますよ?」

「間違いない、行ってみよう」


 諏訪子が炊事の為に、竈で薪を燃やしたので、遠くからでも煙が視認出来た


 

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