第19話 言葉にしなきゃ、届かないから
映画館の自動ドアが、静かに開いた。
外に出ると、空はもう夕暮れ。
街の輪郭がオレンジと藍に染まって、
風の中に、秋の匂いが混じっていた。
階段を降りながら、野上成哉がぽつりとつぶやいた。
「……面白かったな、映画」
しおりは、ふふっと笑う。
「うん、私も」
でも、すぐに──
成哉は耳まで赤くして、頭をかくように言った。
「──いや、実はさ……あんまり内容、覚えてないんだ」
「え?」
「ずっと、ドキドキしてたから。
映画より、隣にいるしおりのことばっか考えてた」
しおりは一瞬、目を見開いて──
そのあと、顔を伏せながら小さく笑った。
「……私も。
ずっと、手のことばっかり気になってて……」
ふたりの間に、また沈黙が生まれる。
でもそれは、気まずさではなく、
心地いい余韻のように、優しく流れていた。
歩道の途中、信号待ち。
成哉は、小さく息を吸って、
しおりの方を向いた。
「しおり」
「……うん」
彼女も、まっすぐ見返してくる。
目が合った瞬間、
胸の奥に何かが確かに“届く”音がした。
「……俺、ちゃんと言うね。
好きだよ。
しおりのことが、好き。
映画の話をしてるときの顔とか、
遠慮しながら笑うところとか、
声が小さいくせに、芯が強いところとか──
全部、すげぇいいなって思った」
「……成哉くん……」
「俺と、付き合ってください」
言葉を出したあと、ほんの一瞬だけ、
彼の声が震えていた。
しおりは──
目元を潤ませながら、小さく、でもしっかりと頷いた。
「……うん。
わたしも、成哉くんが好き。
たぶんずっと前から……気づかないふりしてただけ」
その言葉を聞いた瞬間、
成哉はしおりの手を取って、ぎゅっと引き寄せた。
胸元が重なるほど、
近づいた距離。
人通りの少ない路地。
車の音が遠ざかる。
街灯がふたりを照らす。
しおりは、瞼を閉じた。
成哉は、そっと唇を重ねた。
──優しく、
でも、ちゃんと“伝えるように”。
手も、体温も、
言葉では足りない想いまでも、
全部、伝えようとするキスだった。
空の色は、もうすっかり夜に溶けていた。
でも、ふたりの世界には、
確かな光が灯っていた。
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