第2話

 今日は十四歳の誕生日だ。

 ジャスティスが太陽みたいな明るい顔でケーキを焼いて、俺に黒いローブをくれた。

 ちょうど寒くなってきたところだし、フードをかぶれば額の傷を隠せる。石を投げられて残った傷なんだけど、割と目立つんだ。真っ白けな俺の前髪だけじゃちょっと限界を感じてたところだったんだ。

 毎年だけど、ジャスティスは何故か、一緒の誕生日なのに俺を祝う。

 俺は面倒くさいし、祝いたくないし、ほしくもない。けど、仕方がないからお祝いして、今年は包丁をプレゼントした。あいつは毎日料理してるし、ちょうどいいだろ? 使わないもんよりいい。本人も気に入ってた。

 俺はジャスティスの作ったタンドリーチキンをかじっていた。少しスパイスのきいた肉を頬張ってると、ここ最近の嫌なことなんかは忘れてられる。ちょっと高いんだろう、鶏肉は柔らかくてすごく美味しい。

 ジャスティスはプレゼントの包丁を早速使って、イチゴのショートケーキを切り分けている。いつもの事だけど、器用な奴。ケーキ屋にでもなればいいのに。きれいな飾りみたいに、クリームを乗せるんだから。

 二人で四人掛けのテーブルを囲むのはいつもの事だけど、ここを埋め尽くす程の料理なんて久しぶりだ。めったにこんなに豪華な料理、ジャスティスは作ってくれない。

 ふいに、カチャンと音がして、俺は顔を上げた。

 斜め前のババアの部屋のドアが何日かぶりに開いたからだ。

 ババアは見た事もない、黒のインクみたいな液体のたっぷり入った注射器を二つ持っていた。どう見たって普通のサイズじゃない事くらいは分かる大きさだ。だって両手で持ってもはみ出るくらいのもんだから。

 自分でも分かるくらいの勢いで顔が青ざめていく。吐き気がするのもきっと気のせいなんかじゃない。

 ジャスティスが俺の顔を見て、ドアを見た。そしてさっと青ざめて、幽霊でも見たような顔をする。小さな背中が思い切り、動揺して後退った。同時にテーブルにぶつかって、ガチャンと食器が音を立てた。

 多分、ジャスティスも同じ事を考えている筈だ。

『またババアのアレが始まった。』

 最近、減っていた筈なのに、ババアはこうして月に一回か二回、俺とジャスティスに何かする。研究かなんかの結果出来上がったシロモノを俺達の体で実験するんだ。本当に勘弁してほしい。

 ババアが何か呟いた。

 これは知ってる。体が動かなくなる魔法だ。

 息も出来なくなって、俺はそのまま立ち尽くす。頭がすごく痛んだ。身動ぎ一つ出来ない。本当にマジで嫌になる。

 ババアはまず、ジャスティスの腕にその針を刺した。

 俺と同じく動けないジャスティスの大きな目から涙がボロボロこぼれる。我ながら情けない弟だとは思うけど、俺だって同じくらい嫌だ。気持ちは分かる。

 ババアはたっぷり時間を近くかけて、ジャスティスの腕から手を放した。からんと空になった注射器を床に放り出して、ギロッとこっちを見る。

 ジャスティスはそのまま床に崩れ落ちて、乾いた咳をした。足元で這いつくばったジャスティスが何か言おうとしてるみたいだけど、動けない俺には分からない。

 ババアはゆっくりとスカートをひっかけないように気を付けて近づいてくる。もう一つの注射器を持って、それを俺に向ける。日の光りを受けて、ちかっと針が光った。

「大丈夫よ、すぐによくなるからね」

 ババアは正気とは思えない事を言った。

 俺の腕に触れた冷たい手が、ゆっくりと何度か腕を撫でる。ぞっとするのは絶対ババアのせいだ。そして、場所を決めたのか、左腕の内側にゆっくり針を刺していく。

 痛くはない。どうって事ない。

 でも何かが体を巡っていくのが分かる。ドクンと胸が脈を打つ度に、何かが体の中を這いずり回っているような、嫌な感覚がした。気持ち悪いし、急激に体が重くなっていく。注射器から液体が減っていくのと、同じペースで俺の体が悲鳴を上げるのを感じた。ズキズキと、脈打つ度に全身が痛む。

 針が抜けると、俺も魔法が解けた。

 ジャスティスと同じく、咳き込みながらタンドリーチキンを落としてテーブルに体を任せる。でも腕が言う事を聞かなくて、突っ伏す。ひじをぶつけた。凄く痛い。

 ジャスティスが言った。

「どうしてこんな事をするの?」

 顔を上げると、ババアがいつもと同じ、腹の立つ申し訳なさそうな顔でジャスティスを見つめていた。本当に悪いと思うんだったらやめてくれ、うんざりだ。

「ごめんね。でも、あなた達のためなのよ」

 ふざけんなと言いたかったけど、咳しか出てこなかった。

 口の中が酸っぱくなってきて、最高に気分が悪い。一度吐いた方がいいかもしれない。

 俺は何とか立ち上がると、そのままトイレに向かって行った。目の前が揺れる。ぐるぐる大きく回るんだ。おかげでドアに額をぶつけた。最悪だ。

 便器に頭を突っ込んで、なんで毎月こうやって吐くハメになるんだろうって思った。毎回こうやって腹の中の物、全部残らず吐き出すまで終わらない。なのに気分が良くなるのは明日以降。

 ふざけんなよ、このくそババア。いつか絶対後悔させてやる。

 振り向くと、ジャスティスがキッチンの流しの方に頭を突っ込んでいるのが見えた。水を流しながら、同じくゲロゲロやってる銀髪の頭。きっと俺もあんなふうに見えるんだろうな。鏡みたいにそっくりだから、俺とジャスティス。

 しばらくすると、いつもと同じようにジャスティスがコップに水を入れて持ってきた。

 いつもなんだ。どうしてなんだか、ジャスティスのが収まるのが早い。

 俺はジャスティスの倍くらいは便器と仲良くしてなくちゃならない。酷い時はトイレの床に座り込んだまま、眠れずに夜が明ける事だってある。多分、こんなにトイレで夜を明かしてる奴、俺以外にはいないんじゃないかな。それに俺と一番長くいるのもトイレだ。

「大丈夫?」

 ジャスティスはそう言って、俺の背中をさすった。

 もう何も残ってない筈なのに、俺はおえおえ言いながら震える手でコップを受け取る。口をゆすいでから、そのまま水を飲み干して、何度か深呼吸をすれば少し落ち着いた。それでもまだ震えは止まらない。それに寒気がする。

 今日はいつもよりマシかもしれない。

 それでももう、外は暗くなり始めていた。紅い夕日が窓から差し込んでくる。狭いトイレも暗くなってきた。

 コップを床に置いたら、また吐き気に襲われて、俺は水も残らず吐き出した。

 ジャスティスがいそいそとろうそくに火をつけて、ランタンを持ってくる。

「クライブ、熱があるよ」

 ジャスティスはそう俺の名前を呼びながら俺の額に触れる。はっきり言って鬱陶しいんだけど、今はそれに抵抗するだけの元気も力もなかった。

「ねえ、クライブ。もうオレ限界だよ」

 まるで独り言みたいにジャスティスは言った。夕日で赤く染まったフローリングを眺めながら、ジャスティスは手を下す。青い目からは涙がこぼれてた。

「もうこんなところにいたくないよ」

 それはこっちのセリフだ。俺だってこんなところにいたくない。

 俺と同じ顔をした弟は、ボロボロ泣きながら続けた。

「一生このままなんて嫌だよ」

「俺だって」

 俺はジャスティスにそう返した。

 目の前が薄らぼんやり揺れている。気分が悪い。全然良くならない。

 俺もジャスティスも限界だった。

 もう十四年だ。十四年も我慢して、この家で生きてきた。毎月毎月、物心つく頃にはこうやってトイレで何度も吐いた。その度にババアが憎くて憎くて仕方がなかった。いつか絶対殺してやるって、何度思っただろう。

 俺はまだ力が入らない両手をぎゅっと握りしめて、そしてジャスティスに言った。

「もう出て行こう。二人でならここ以外でだってなんとか出来るだろ」

 ジャスティスは少し驚いた顔をして、青い目をこっちに真っ直ぐ向けてきた。

 全く腹の立つ奴。

 俺はさっと目をそらした。視線を向けられるのは嫌いだ。冷たい村の連中の視線を思い出すから。

 白い便器に、大きな音を立てながら水が流れていく。

「行く。クライブが行くなら」

 それは水音でかき消されて、ほとんど聞こえないような、掠れたか細い声だった。

 俺はうなづいて、ゆっくり立ち上がった。大丈夫。なんとか歩けそうだ。まだぐるぐるするけどいける。ジャスティスが俺に手を貸してくれた。

 二人で二人の部屋に戻ると、俺はブーツを履き、机の上の小さなナイフをベルトに挟んだ。ジャスティスは薄茶色のローブを羽織って、お揃いのブーツを履いていた。手には買い物用のバスケットを持っていて、財布と小さなメモ帳と鉛筆が入っているのが見えた。

 笑える。十四年も暮らしてきて、俺の荷物ナイフ一本かよ? ジャスティスもなかなかのもんだと思うけど、ホント俺ってこの家に思い出一つもないんだな。

 こっそり部屋を出ると、ババアはもういなかった。あの臭くて汚い部屋に戻ったのかもしれない。どうせ、研究結果でも書いてるんだろ。なんて書いてるのかは知らないけど。

 俺はテーブルの隅に置きっぱなしだった、誕生日プレゼントを羽織るとフードを深くかぶった。手近なパンをいくつか手に取り、キッチンの棚から紙袋を出して、入るだけ詰めたらジャスティスを見た。

 ジャスティスはプレゼントした包丁を丁寧に拭いて、リンゴを二つバスケットに入れていた。それから台所の棚にしまってある、今月の食費が入った革の財布を取り出した。

 食べかけのケーキがそのままで、冷たくなったタンドリーチキンがもったいない。あっためたらきっと美味いんだろうけど、今は全く食欲がない。流石にこれは持ってけないな。

 俺はジャスティスに紙袋を渡すと、そのまま出来るだけ静かに玄関に向かった。

 ババアの部屋の前を通る時だけは怖かった。

 出てきて、手を掴まれるんじゃないかなんて思った。

 でもあっさり、俺もジャスティスも玄関まで出てこられた。

 靴箱の横に立てかけられた剣を見る。

 親父の置いていった大振りの剣が二本、俺が護身用に持っていた少し小振りな剣が一本。そしてジャスティスの練習用だった木刀が一本。あとおそろいの黒い傘が二本。

 俺は自分の剣を握ると、ベルトの留め具に吊るした。

 親父のは二本とも重すぎて、歩いて持ってくには向かないだろう。俺のの倍はある。こんなもん護身用には使えない。ジャスティスが意地はって、親父のデカい剣を背負うところ見たら笑いそうになったけど。

「やめとけよ」

 小さい声で言った。

「でもオレはクライブと違って剣がないんだもん」

 ジャスティスはそう言うと、そのままドアノブをゆっくり回す。きしんだ音がして、ジャスティスが一旦動きを止める。

 大丈夫、ババアの部屋には聞こえてない。

 二人でそれを確かめながら、ほっとして息をついた。

 ドアをゆっくりと開けて、ジャスティスが先に家を出た。後を追って俺も出る。

 そのまま足早に庭を抜け、大通りに出ると一旦止まった。

 真っ暗だ。

 もう日が暮れてて、ランタンがなくちゃ何も見えない。月もないんだ、今日。

「追ってきてない?」

「大丈夫そうだ」

 俺はそう答えてから、用水路に思いっきり吐いた。

 ああ、もう本当にどうなってんだよこの体は! うんざりする。

 ジャスティスが俺を見る。

「行こう、きっと山を抜けた方が見つかりにくいよ」

 そしてそのまま真っ直ぐ、山へ続く暗い道をひたすら歩いた。ときどき立ち止まって吐きながら、俺は珍しく前を歩くジャスティスの背中を追いかけた。

 山は危ないと聞いた事がある。

 山奥は魔物が多くて、ときどき村の方へも降りてくる。大したのは来ないけど。

 村で聞いた。本当は魔物狩人が仕事をするべき地域なんだけど、自分達の村が近いから、依頼するわけにもいかずにほったらかしなんだって。深い谷の向こうには大きな街があって、見た事ないけど塩辛い水がいっぱいあるうみがあるって。

 本当かどうかなんて知らないけど、あのババアが探すとしたらきっと街道の方に違いない。だって十キロも歩けば隣り町だ。流石に月明りもない夜に、山に向かって行くなんて思い付きやしないだろう。ジャスティスの選択は正しいと思う。

 道が道と言えなくなってくると、流石にジャスティスがいなくちゃ何も見えなくなってきた。

 雑草は腰くらいまであるし、木々が生い茂ってて、どれが道だか分かったもんじゃない。

 俺は揺れる視界にいい加減うんざりしながら、いつもより早く感じるジャスティスの背中を必死で追う。

「おい、ジャスティス」

 呼びかけると、ジャスティスはこっちを見た。

「クライブ、大丈夫? どうしたの?」

 ようやく立ち止まった。

 俺はそのまま、一番近くの大きな木にもたれかかって言った。

「休んでいいか?」

 ジャスティスはうなずいて、抱えていた剣を下した。いつの間に持ち出したんだか、大きめの水筒を俺に差し出す。

 ありがたくそれを受け取ると、俺はそのまま地面に座り込んだ。

 ぐるぐる揺れる。気分が悪い、頭が痛い、とにかく体が重い。

「なかなか良くならないね」

 ジャスティスはそう言って、俺の隣りにちょこんと座った。

 ランタンの柔らかい火が揺れる。すごく心もとないけど、何もないよりよっぽどマシ。

 ジャスティスは顔色も良さそうで、早くもパンをがじっていた。水筒を返すと、ごくごく飲みながら空を仰ぐ。

 おめでたい奴だよな、本当。羨ましいよ、全く。

「星がよく見えるよ、クライブ」

「あ、そう。俺それどころじゃないから」

 遠くで狼の鳴き声が聞こえる。虫とか、風の吹き抜ける音。葉っぱが立てる心地いい音に交じってる。少し冷たい夜風が少しだけ気分を良くしてくれる。

 汗だくのジャスティスが俺に言った。

「どこまで行こう?」

「さあ?」

 俺はそう答えるのが精一杯だった。

「オレ、海が見たいなぁ」

 ジャスティスはそう言って、俺の背中をさする。

 俺は思いっきり飲んだ水を吐きながら、ぐらぐらする自分を応援した。頑張れ自分って。あんまり意味なかったけどさ、でもトイレの床で寝るより、よっぽどマシ。

 急に大きな風が吹き抜けた。ランタンが風にあおられて、ガチャンと音を立てて倒れる。同時に火もぽっと消えた。辺りは急に真っ暗になった。

 マズイ。俺、マッチは持ってきてない。

 ジャスティスを見ると、同じく青い顔をしていた。

「クライブ、マッチは?」

「持ってねぇ、ジャスティスは?」

「置いてきちゃった」

 十四年の人生でも一、二を争う悲惨な事かもしれない。

 もう何キロ歩いただろう。この距離じゃ村へも戻れない。かといって、ここにいたら間違いなく朝までには魔物の餌だ。

 俺はゆっくり立ち上がると辺りを見回した。

 暗くてよく分からないけど、谷がある筈。村まで続く川を辿れば、どこかの町へは着く筈だ。耳を澄ませると、前から水の流れる音が聞こえてくる。川はあっちだ。

 剣を背負うジャスティスが俺を見る。

 今度はいつもと同じように、俺が前を歩いた。手探りであちこち茨にひっかけながらも、小さな水音に向かって進む。

 すぐ後ろのジャスティスが、俺のローブの裾を掴んでいた。おかげでフラフラの俺から体力も倍くらい奪っていく。でもなんにも見えないんだから仕方がない。

 川が見えた時だった。

 ジャスティスが俺より先に走って行った。小さな川に手を入れて、いかにも冷たそうな水を顔にぶっかける。

 俺、寒気で死にそうなんだけど。何コイツ、バカなの?

「気持ちいい!! 最高!!」

 ジャスティスがそう笑う。

 俺はゆっくりとそこまで行って、なんとか座った。かなり古いけど、誰かがここでたき火したあとが見える。多分、村まで続く川だ。村に行った奴が誰かいたんだろう。

「水飲む? 美味しいよ」

 ジャスティスがそう言って、俺に濡れた水筒を向ける。

 飲んでも出ちまうし、一緒なんだけどな。俺は軽く口をゆすいで、少しずつ冷たい水を飲んだ。体が冷え切っちまいそうな程、冷たい。

 コイツ、よくこんな冷たい水で顔を洗えるな。ちょっと感心した。

 俺は木々の隙間に目を凝らした。

 なんか、塔みたいなもんが見える。しかもデカそうだ。高い木々の間から見ても、思いっきり出てるんだから。多分もっと上流の方だろう。少なくとも村には、あんな感じのとんがった塔はない。

「ジャスティス、とりあえずあそこを目指そう」

 俺はジャスティスに声をかけた。

 ジャスティスはうなずく。

 少しは気分もよくなってきたみたいだ。流石に今度は吐かなかった。

 川に頭を突っ込んでるジャスティスをしり目に、俺は先に川をまたいで越えると手近な木によじ登った。塔がよく見える。

 方向をしっかり確かめてから、俺は木から降りた。登ってきた側とは反対側にまず右足をつけると、根っこだったらしい。ずるっと勢いよく滑った。

 一瞬だった。

 しがみつこうとした枝がパキッと折れて、地面に着く筈だった左足が地面を見つけられずにすとんと落ちた。なんか腹の辺りがふわっと浮くような、嫌な感じがした。

 ジャスティスの叫び声より早く、俺は落ちていた。

 木からって言うよりは、崖からだ。だんがいぜっぺきって、こんなのを言うんだろうな。

 浮いた感じが続いて、すごい長い時間落ちていった気がした。何度か高い木にぶつかって、痛いと思うより前に地面についた。木のおかげでかなり楽に落ちたんだとは思う。でも息が出来ないくらい派手に背中を打ち付けた。くらくらして、真っ暗な闇しか見えない。息も出来ない。

 上の方からジャスティスの声も聞こえるけど、もうどうだってよかった。あの根性なしならいつも通り、そのうち諦めて塔に行くだろう。

 全身ズキズキする。多分、骨の何本かは折れてんじゃないかな? これだけの高さから落ちて、即死じゃないあたり、俺って本当についてないよな。

 でも、やっと死ねるんだ。

 走馬燈なんて見えないけど、そう思った。

 まさかこんな終わり方だなんて思いもしなかったけど、ホント、ロクな人生じゃなかった。いい事なんて、なんにもなかった。でも、これできっとよかったんだ。どうせ生きてたって嫌なことしかないんだから。

 目を開けると、緑色の髪の女が見えた。

 大きなほうれん草色の目が俺をバカにしたように見下ろしてくる。長い若草色の髪が垂れてきて、俺の頬を撫でた。

 死神って女なんだなって、すごく冷静に思った。

 そしてその死神は言った。

「ダンピールじゃん。ラッキー」

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