騙り語り

月宮 余筆 (ツキミヤ ヨフデ)

プロローグ:初騙り

第1話 本

夜。

今日と明日の隙間の時間に、眠ることが出来なくて、小さく目を開けて、のっそりとベッドから体を起こす。

何気なしに部屋を見回すと、見慣れたはずの部屋に違和感を覚えた。


本棚に埋まっている、見覚えのない白い本。

気になって取り出してみれば、表紙にも裏にも何も書かれていない。

どこも真っ白で、記憶にない本だ。

周囲の本が、程度は違えど、それぞれ劣化しているというのに、この本だけは真新しいのも、異常な部分の一つだろう。


試しにパラパラと中身を捲ってみれば内容はエッセイ、もしくは日記のようだった。

別に刺激的な内容でもなく、どこか幼稚な印象を受ける。


だが、読み進めるうちに違和感が募る。

どこか見覚えのある印象、聞き覚えのある言葉。

知っている出来事。


そこまで気づいて、僕は反射的に本を投げ捨てた。

本は背中を床にたたきつけ、無残に放り出された。

全身が泡立ち、呼吸が荒くなる。


そう。あの本に書かれている内容は、どこかの知らない誰かの物語ではない。

僕、空月 聡真 (からづき そうま)

という人間の、今日、現在に至るまでが、赤裸々に、記録されていたのだ。


心臓がドクドクとうるさい。悪い夢でも見ているようだ。

逃げるように、目に入らないように、僕は本を机の奥深くへと封じ込め、鍵をかけた。


本を机の奥深くへと封じ込め、僕は日常に戻った。

そこから数日、何事もない日々を過ごした。


しかし、机の奥深くへと押し込んだはずの本が、脳裏を過る。

あれは何だったんだ?

誰が書いた?

僕が自覚なく用意した?

ぐるぐると巡る疑問と好奇心、そして不安。

五日後の夜、僕はついに本の存在を無視できなくなり、引き出しを開いた。


真っ白で、真新しい本は、変わらずそこにあった。

小さく深呼吸して本を開けば、相変わらず僕の人生が書き連ねられている。

読み進め、最新のページにたどり着けば、机に本を封じたあの日から、今日に至るまでが書き足されている。


覚悟はしていた。

しかし、実際に目の当たりにすれば、不気味なことこの上ない。

誰が、何の目的で、どうして書いたのか分からない。

内側から心臓を握られたような息苦しさが、湧き上がってくる。

僕は言葉を失った。頬が引きつり、乾いた笑いが漏れた。

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