第14話 歓迎パーティー
「デニィ。何か用クヮ?」
「え、お邪魔だった? みんなでご飯を食べに行こうと思ってさ。せっかくだから、アスカも一緒にって、思ったんだ、けど……」
デニィがそろり、そろりと後退しながら、言葉のお尻をすぼませながら言った。ふたりだけじゃない。デニィにまで気を遣わせてしまっている。心にチクリと痛みが走る。強がってでもいいから明るくしなくちゃ、と、心のスイッチを強引に切り替える。
「ううん。そんなことないよ! ご飯、わたしも一緒に行っていいの?」
心のモヤモヤをひた隠して、別の誰かを演じるように、お腹の底からはしゃいだ声を出した。
「もちろん! ほらほら、サンとヒュウも! おいていっちゃうぞぉ」
「え、ちょっと! おいていくとはなにごとクヮ⁉」
「さ、行こう! サン、ヒュウ! デニィ、案内してくれる?」
「オッケー! 任せて!」
「ね、ねぇ、アスクヮ! ちょっとだけ、痛い!」
「文句言わないの! ついてこないと、おいていっちゃうぞ!」
ぎゅっと掴んだ翼と腕から、ピリピリとした何かを感じる。ふたりにはきっと、これが空元気だってバレている。でも、いい。わたしは、このふたり以外には、ついさっきの心の揺れを知られたくない。だからこのまま、光の仮面で闇を隠す。
ぽわんぽわんと進むデニィについていくと、大きな建物に着いた。それは、まるでちいさなお城のようだった。何回か似たような建物を見たことがある気がするけれど、それがなんだったか、わたしはすぐには思い出せない。
「この建物、きれいだね」
「でっしょー? ここはねぇ、パーティーをするときによく使うんだよ」
「へぇ」
「ちょっとしたパーティーの時にね。何かのお祝いとか」
「ふぅん」
「でも、結婚式とかそういうやつは、雲島でするんだぁ」
「け、結婚式!」
そうだ、わかった! わたしの記憶の中にちょっとだけあった、似た建物! なるほど、この建物は、結婚式場に似ているんだ!
「ん? 結婚式って、そんなに驚くことなのクヮ? ま、いいや。さぁ、中に入ろう~」
「ああ、うん!」
サンはデニィとともにぽわぽわと先に中へと入っていく。わたしは王子さまのように手を差し出して待ってくれているヒュウの手を取り、恐る恐る足を出した。
「うわぁ、きれい」
モノクロの濃淡と凹凸のみで飾られた通路は、神秘的だった。見れば見るほどに様々な色が浮かび上がってくるような気がする。長いテーブルが置かれた部屋に入ると、先についていたみんながちょこんと腰かけ、わたしたちのことを出迎えてくれた。
テーブルに近づくと、床からにょき、と椅子が生えてくる。にょき、と生える雲にどき、としたけれど、なんてことない顔をして腰かけた。
あたりを見回すと、みんなの顔がちょうどよく見える。
――ちょうどよく見える?
気になり、みんなが座っている椅子を見てみる。
どうもそれらは、みんなの体の大きさに合わせたものらしい。雲の世界だからこそできる、瞬間オーダーメイドってわけだ。
「いい笑顔だね、アスクヮ」
テーブルの向こうに、サンのニッコリ笑顔がある。両方の翼で頬杖をついているその様は、もう見慣れたけれど、やっぱり奇妙。ハロウィンだからと着ぐるみ仮装をしたけれど、暑くて頭だけ脱いだみたい。なんて、サンを本物の人間だと思いこもうとする自分がいたことに気づく。
「そうだ、アスカ。何か苦手なものとか、ある?」
「え?」
「食べられないもの」
「うーん」
この場所での食べ物がどんなものなのか、わたしはまだ知らない。だから、食べられないものが何なのかも、正直を言うとよくわからない。地上では、ほとんど好き嫌いしないで食べていた。でも、それは嫌いなものが給食や食卓のメニューにならなかったからでもある。たとえば、虫の素揚げとか、蛇の丸焼きとか――そういうものが出てきたら、わたしは食べない、と思う。
「じゃあ、とりあえず並べてもらってもいいかな? 苦手なものとかあったら言ってね」
「うん。わかった!」
「お願いしまーすっ!」
ノウが叫んだ。と、同時に、ノウの体が二つに割れた!
「……えっ!」
ぼうん、ぼうん、とノウの割れた体がぶつかるたびに音がする。
「ノウはああやって合図するんだよ」
デニィがくすくすと笑いながら、わたしに小声で教えてくれた。そういえば、クラウレインに乗ったとき、デニィはくるんと一回転してぴょんぴょん跳ねていたっけ。なるほど、手や足がない生き物たちは、それぞれに工夫しながら生きているってことみたいだ。
「さぁ、料理の到着だ! みんなで、アスカとの出会いを祝おう!」
立ち上がり、拍手をしながらそう言ってくれた、長い手袋が印象的な生き物の名前を、わたしはまだ知らない。
この歓迎パーティーの間に、名前を聞きにいかなくちゃ。
たくさんの料理が雲に乗ってテーブルにやってきた。
雲はテーブルに着くと、跡形もなく消えていく。なんてすごい配膳の仕方なんだろう!
地上では実現不可能に見えるそれを、わたしは目から光線を発しているかもしれないと思うほどじっくりじっくり観察した。
「アスクヮ、そんなにこれ食べたいの?」
「へ?」
サンがきょとんと首をかしげながら、料理をこちらに差し出している。
その料理とは――
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