第12話 私はもう、誰かの色じゃない
「おはようございます」
その一言を、自分から言えるようになった。
出勤して、フロアに入ったとき。
いつもは相手の目を見て笑うこともなく、ぼそっと言うだけだったけど、
今はちゃんと、顔を上げて言える。
昨日、青木さんとちゃんと想いを伝え合ったことで、
なにかが、確かに変わった。
◇ ◇ ◇
「ねえ、佐倉さんって、雰囲気変わりましたよね?」
お昼、由美がふいに言ってきた。
「あ、でもいい意味ですよ? なんか前より、自然体っていうか」
「そう……見えます?」
「うん。めっちゃ良いです」
素直に、うれしかった。
以前の私なら、「そんなことないですよ」とすぐ否定してたと思う。
でも今は、その変化をちゃんと認めたくなった。
「ありがとうございます」
そう言って、笑った私は、
たぶん“作ってない笑顔”だった。
◇ ◇ ◇
仕事帰り、青木さんと駅で待ち合わせて、少し歩く。
「最近、すごく元気そうですよね」
「そうですか?」
「うん。あと、目がちゃんと“何か”を見てるって感じ」
その言葉に、ちょっと笑ってしまった。
「……自分の色が、やっと見えてきた気がします」
「色?」
「はい。ずっと、誰かの色に染まってるって思ってたんです。カメレオンみたいに。でも、あなたの前だけでは透明で……」
彼がふっと笑った。
「それ、なんか綺麗な言い回しですね」
「ふふ、でしょう?」
会話が自然と続く。
前は、“何を言えば正解か”ばかり考えてたのに、今は違う。
自分の言葉で、自分の声で、ちゃんと人と話せている。
そして、隣を歩く彼の横顔を見ながら、ふと思った。
「私、変わったって言われるけど……」
「うん?」
「きっと、“戻った”だけなんだと思います。
小さい頃の、自分の気持ちを素直に出せてた頃の私に」
青木さんは、ゆっくり頷いた。
「そのままでいてくださいね。俺は、その佐倉さんが好きなので」
歩道の信号が青に変わった。
私たちは並んで歩き出す。
手が、自然に重なった。
握られたその手は、優しくて、あたたかくて、
私の中の不安や怖さを、そっと溶かしていく。
カメレオンだった私が、
ようやく、自分の色を持ち始めた。
もう、誰かの色に染まらなくていい。
私は、
私のままで、生きていける。
(完)
カメレオンだった私が、あなたの前だけでは透明だった @Chamaeleonidae
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