第1話
星になった彼等
「星になった彼ら」
プロローグ 「追憶~消え残る想い。」
リリリリリー、朝の時計の音で目が覚めた。(もう、こんな時間か。) 朝の弱い私は何度も鳴る時計の3回目のタイマーでようやくベッドから起き上がった。窓を開けると夏空に輝く太陽の光が散々と降り注ぐ、その光を浴びようやく眠気が取れた。 階段を降りて居間に向かうと、目玉焼きやソーセージ、トーストの出来上がる香ばしい香りがしてきた。
「おはよう、里美、良く寝れたか?」 旦那が私の代わりに朝食を丁度作り終えてくれてたみたいだ。休日の日は寝坊助の私の代わりに、いつも、朝食を作ってくれるのだ、本当にありがたい。 「朝食ありがとう、あなたも休日なのに、ごめんね。」 エプロンをし、出来上がったご飯を机にならべる旦那は爽快に答える。「ハハハ、気にするなよ、こう見えて料理は得意なの知ってるだろ? それに今日は特別だろ?丁度、晴れて良かったな、絶好な海日和だ!史也も喜ぶな!」
そう、今日は息子の史也を連れて海水浴に行く日なのだ。旦那がおかずを食卓に並べると、丁度、2階から史也が降りてきた。「ママ、パパ、おはよう!」 前日から、この日を楽しみにしていた息子の史也が元気良く満面の笑みを浮かべている。まだ、五歳の彼は食べる量も少なく、カルピスを飲み、ウィンナー2本とトーストを少し食べると、どうやら、もうお腹が一杯の様で、浮き輪や海水用ゴーグルを手に取り、早く出掛けようと皿洗いをしてる旦那の袖を引っ張っている。 「史ちゃん、もう少し待ってね、今、パパお片付けしてるからね。」 私が諭すように、そう言うと史也は、「はーい」と返事をし、浮き輪を身体に巻きつけて床の上でバタバタと泳ぐ練習をしだした。 よほど、この日を楽しみにしていたのだろう。そのあまりに愛らしい姿に私はヒョイと彼を抱っこした。 「ママの抱っこ大好き!」 そう言う史也は本当にいとおしい。史也を抱っこしている中、食卓に置いてあるカルピスを見て私の中でふと心に残る想いがあった。
「ママ、何でずっとカルピス見てるの?」自分でも気づかない内に随分と食卓の方を見つめていた様だ。 「さて、そろそろ片付けも済んだし、出かけるか!」夫は私の思いに気付いたのか、海水浴に出かける準備をし終え、車の鍵を手にし、「さぁ、史也、出掛けるぞー!」 と元気良く声を掛けた。 「ママ、早く早く」と、息子に言われ、日傘とビーチマットを手にし居間を出ようとした。
ふと、もう一度、食卓に目を向け、カルピスの瓶を見ると、あの頃の記憶が頭によぎった。(、、行ってきます。) そう心の中で呟くと部屋を後にし、外に出た。 「本当に良い天気だな~!よし、2人とも車に乗って!出発だ!」 「わーい!出発、出発!」夫も息子も本当に嬉しそうだ。 車に乗り、道中、ビーチに着くまで、息子の史也はずっと嬉しそうに窓の外に映る景色を見ては私と夫に、何度も、「後、何分? 後、何分?」と聞き続けていた。 「もうすぐ着くわよ、楽しみだね、史ちゃん。」そう言って私は息子の小さい頭をなでた。サラサラとした柔らかく少し茶色い髪の毛、本当に、、そっくりだ。。
私は窓を眺める史也の後ろ姿をじっと見つめていた。やはり、胸の奥に、脳裏に消え残る一つの想いが私の心を締め付ける。
やがて、小一時間程経つと、潮の香りがし、地平線にどこまでも続く、なだらかな海岸線が見えてきた。「よし、そろそろ着いたな!」旦那はビーチの駐車場に車を停め、史也の手を繋ぎ、一緒にステップして、海へと向かって行った。8月の澄んだ夏空の下、美しく青い海に、史也は、もう大興奮で早く泳ぎたいと何度も言う。「よし、じゃあ、史也、水着に着替えて早速泳ごうか!」 「わーい!」 3人でビーチに向かうと8月も中旬、30℃を超える快晴の空の下、浜辺は多くの人で賑わっていた。3人で海に入ると、ほどよくヒンヤリとした海水に史也はよほど、嬉しいのか何度も何度もジャンプして水面から波しぶきがキラキラと舞う。 少し遊んでから、一度、海から上がり、ビニールシートを引き、並ぶ露店で飲み物と食べ物を買いに並んだ。
「ママ、パパ、もっと遊ぶよね?早く早く!」まだまだ遊び足りない史也は額に汗をかきながら、海の方をじっと見ている。 「ちょっと、ジュースとか買って場所取りしたら、また海に入ろ、、」 「あ!カルピスだ!カルピスも売ってるよママ!」 私が話し終わらない内に屋台のジュースに史也は無邪気に喜び私に買ってほしいと手を引っ張る。(カルピス。。今日は良く見るな。。) 「ねー!ママ、早く早く買って!」
「お客さん、後ろ詰まってるんで、」
「あ!すみません、カルピス3つ、いや、、2つとコーラ1つと焼きそば3つ下さい!」 随分とボーッとしていたのか、史也と店員の呼び掛けでふと我にかえった。 「おーい、こっちこっち!」 買い物を済ませると、夫がビーチにシートを敷き場所取りをしてくれていた。 「随分、屋台混んでたんだな。」 夫にそう聞かれると、史也が不思議そうに話した。 「ママ、変なんだよ、ジュース買う時、ボーッとしてたんだよ。」 「ごめんね、あなた、待たせて、暑いわね、はい、ジュース、あ、コーラね。」私は咄嗟にカルピスを引っ込めた。「ああ、ありがとう。。。」 「里美、、大丈夫か?」 ジュースを受け取ると夫が何か少し心配そうに私を見つめた。「大丈夫よ、ごめんね、今日、ちょっと、寝不足なだけだから。心配ありがとう。」 私達が話していると、史也が大好きなカルピスを半分ほど飲み終えると、早く海に入ろうと言い出した。「よし、じゃあ、また泳ぐぞー!」「うん!!」 旦那は史也の手を繋ぎ、飲みかけのジュースを置いた。「ママも泳ごうよ!」 水に濡れた史也の茶色い髪の毛が太陽の光を浴びキラキラと輝いている。(。。。)私が食べかけの焼きそばを置き、立とうとすると、夫は今日の私の様子を見ていてか、「史也、ママちょっと、今日疲れてるみたいだから、少しパパと泳ごう。ほーら、浮き輪も水鉄砲もあるぞ~!」 「あなた、私も、、」 一緒に泳ぐと言い終わらない内に、旦那はゆっくりと優しく私の肩を軽くポンポンと叩きながら「無理するな、少し休んでな。」と言い、私の胸の内を悟ってるかの様に見えた。「ごめんなさい、あなた、迷惑掛けちゃって、、」 夫は文句の1つも言わず、再度私の肩をポンポンと叩き、気にしない様にと微笑んだ。「じゃあ、ママ、行ってきます!」史也はルンルンと夫と再度、海辺に向かった。「パパ、パパ、見てみて!」 浅瀬の海水の中で史也はまだぎこちない泳ぎを夫に見せている。 私はそんな様子を見ながら、先ほど買ったカルピスを一口飲んだ。「パパー!見てみて!」水鉄砲を何度も楽しそうに打っている史也と夫を遠目はに見つめながら、再度カルピスを飲んだ。カルピスのペットボトルを見て、私は、あの日々の事が頭から離れず、ボンヤリと考えていた。 無邪気に海でじゃれあう史也と夫を見て、私はこの今ある幸せを失わない為に、あの日々の思いを、振り返るのは、もう今日で最後にしようと決め、過去のあの夏の日々の追憶を振り返った。 あの日々、私達はどんな一瞬も真剣だったよね、忘れる事などないよ。沢山のありがとうとごめんねを届けるよ。どれも、あなたと過ごした日々は今でも色褪せない大切な想い出だから。でも、だからこそ、もう振り返らずに進まなきゃいけない。今を精一杯生きなければいけない。そう決めて私は澄んだ青空が広がる中、瞳を閉じ、あの日々の想い出を頭の中で、一つ一つ振り返りを始めた。 夏空は更に晴れ渡り、波の音が静かに響き、太陽が散々と降り注いでいた。
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–
尊い
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ぐっときた
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泣ける
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好きです
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推しです
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