第12話 文明の利器
「どうよこれ」
「どうよと言われても、いろいろ問題があるようにしか感じません」
陽菜が食堂を出て見せてくれたのは、レンタルの原付だ。
「だってこれなら、らくちんで上まで上がれるよ」
「だってこれ、一台だけじゃないですか。僕は免許も持っていないし、結局歩いて上がるしかないでしょ」
「きみ、ニケツって言葉を知らないのかい?」
「言っときますけど、原付は二人乗り禁止ですよ」
「そんなことは知ってるよ。ただ、あたしもそれほど馬鹿じゃない。ちゃんと下調べをしておいたんだ」
「なにを調べたというんです?」
「この島では二人乗りは禁止じゃないってことだよ」
「そんなルールがあるはずないでしょ」
「それがだね、あるのだよ。この島には駐在員は一人かいなくて、その駐在員は島民全員の知り合いだ。そして、この島の形状からにもつや人を運ぶためにやむを得ないこともあるというのがその駐在員の見解だ」
「堂々と違法行為じゃないですか。駐在員が目をつむっているというだけで」
「捕まらなければどうということはない。ちなみに駐在員は日中、港の方にいるからニケツをとがめることは天地がひっくり返ってもない。それにね、この歌詞バイク屋さんもそれを分かったうえで商売しているんだ。だからほら、ヘルメットも二つ貸してくれた」
「ヘルメットの着用だけは守るんですね」
「そりゃあ、もし転んだら危険だからね」
「二人乗りだって危険だから禁止されているはずなんですがね」
「いちいちうるさい子だね。一人走って上まで上がるかい?」
「……後ろに、載せてください」
「いい子だ」
陽菜はヘルメットの一つを僕によこす。それをかぶりながらふと気づく。
「先輩、さっきビール飲んでましたよね」
「捕まらなければどうということはない」
くれぐれも言っておくが、これらの行為はすべて犯罪行為だ。たとえ捕まらなかったとしても、行為自体がなかったことにできるわけもない。
そして、昨今これらの行為がたとえ文章上のフィクションであったとしても、それを指摘される場合も少なくない。だが、少しだけ考えてくれ。
世の中にはフィクションだからと、作中で人を殺したり、略奪をしたりする様子をメインテーマとしてして描いている作品だって少なくない。犯罪の大小を言うのは正しい見方ではないかもしれないが、それなのに、原付の二人乗りとか、些細なところに関してはどうか目をつむってほしいところだ。
「ほら、もっとしっかり掴まっていないと振り落としちゃうよ」
九十九折の道を上がっていくのだから、しっかり掴まらないといけないというのは道理である。
だけど、僕は半そでのTシャツ一枚で、陽菜もまた薄いキャミソール一枚だ。そんな彼女に後ろから抱きつき、しかもしっかり掴まれというのは少々抵抗感がある。回した腕は彼女の腹部を抱え込み、力を入れると折れてしまいそうなほど華奢で柔らかな体に罪悪感さえ覚える。
しかし、その罪悪感もすぐに吹き飛ぶことになる。陽菜は遠慮することなくアクセルを全開にスロットルを回し、スピードを落とすこともなく九十九折の道を行くものだからたまったものではない。こちらも振り落とされないようにしっかりと腕を回し、背に頬をぴったりとくっつけるように押し当てた。汗ばんだキャミソールに陽菜の体温を感じる。
昨日歩いて上がった時はとてつもなく長い距離だと思っていたが、文明の利器を扱うことでそれはいともたやすく些細な距離に変化した。
「達哉どさくさにまぎれて胸、揉みすぎだよ」
「ちょっと待ってくれ。そこまではしていないだろ。言いがかりはよしてくれ」
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