207話~闇夜の襲撃~

暗黒魔法使いの襲撃は日が落ち、優人たちが冒険酒場で食事を済ませた後から始まった。

いつものように食事を済ませ、軽い雑談をしていると、何やら外が騒がしくなり、道行く人に聞いて襲撃を知ることとなった。


その話を聞くと、優人・アレス・リッシュは急いで正門へ向かい、綾菜・シリア・ミルフィーユは神殿へと向かった。

優人の考えていた陣形とは少し異なるが「王都の住人を守ることも大切」と言われ、リッシュを正門側に出すことで手を打つことになった。


* * *


優人たちが正門に着くと、数人の魔法兵団と王都で雇った傭兵たちが遠くをじっと睨んでいた。


「どうしましたか? 戦況は?」

アレスが近くにいた魔法兵団に尋ねる。


「ゾンビの集団がこちらへ向かってきていますが……動きが鈍くて、まだ攻撃範囲に入っていないものでして……どうしたものかと……」

魔法兵団の1人が狼狽した表情で答える。


「待ってても仕方ないんじゃないか?

向こうが動きが鈍くて来ないなら、こっちから攻めよう。」

リッシュが提案するが、優人とアレスは首を横に振った。


「陣形を軽々しく崩すもんじゃない。

下手に攻めて罠にでもハマったら、敵の思うツボだ。」

アレスが珍しくまともなことを言う。


優人も内心同じことを思っていた。

勝手な判断で個人が動くのは、団体戦ではマイナスに働く。

優人はスールム兵の時もサリエステールの時も、“敵戦力の個人の勝手な判断”を利用して戦況をひっくり返してきた実績がある。


「ちっ……ゾンビを前衛に、魔力の消耗戦を誘ってきてやがるな。」

遠くのゾンビを見ていた優人たちの後ろから声が聞こえる。


振り向くと、長いロッドを肩に掛け、めんどくさそうに歩いてくる長髪の男――ラウリィがいた。


「ラウリィ様! いかが致しますか?」

魔法兵団が声をかける。


「ここで待っててもつまらんしな……」

ラウリィはロッドの先端をゾンビに向け、左手をそっと添えた。


「神の雷!!」


ロッドの先から白い光が一直線に伸び、進むほどに大きくなり、ゾンビたちを飲み込む。


ドーン!!

「ぐぁっ!!」


凄まじい爆発音とともに、遠くで何人かの悲鳴が聞こえた。


ラウリィの放った“神の雷”は地面に真っ直ぐ焦げた跡を残し、所々が燃えて少し明るくなっていた。

大量のゾンビは一気に浄化され、後方にいた暗黒魔法使いにも被害を与えたようだ。


「神の雷……。確か、ジハドの子どもに戦神がいて、その神の得意技だったと聞くが……それを使う人間がいたとは……」

アレスが感嘆の声を漏らす。


「我が主の力を持ってすれば、これくらい大したことではない。

聖なる力でゾンビを浄化し、雷の力で焼き尽くす。

暗黒魔法使い程度に引けを取りはしない。」

ラウリィは焦げ跡を見つめながら語る。


「やつらの戦術は面倒臭い。

生者を殺せばゾンビとして蘇らせ戦闘を続けさせる。

恐らく“ゾンビメーカー”という薬を傭兵に飲ませている。死ねば自動でゾンビになる薬だ。

清めの魔法が使えないお前たちが出ても苦戦するだけだ。後方に下がってろ。」


そう言ってラウリィが動き出そうとしたその時――


パチパチパチパチ……。


手を叩く音が響き、一同が一斉にそちらを警戒した。

黒いローブの男が、不敵に笑って立っていた。


「さすがは三賢者のラウリィ殿。

まさかあのゾンビの大群を一撃で半数まで減らすとは、恐れ入ります。」


「貴様は誰だ?」

ラウリィが睨む。


「これはご挨拶が遅れました。

私は暗黒魔法使いサリエル様の右腕――ボンネットと申します。」


挨拶が終わるか終わらないかの瞬間――


ブォン!!


ラウリィがロッドの先端で殴りかかった。

だがボンネットは軽やかに後ろへ跳び、それを回避する。


「聖なる力を宿した一撃ですか。

確かにリッチである私には有効な攻撃ですね?」


「……舐めてるのか?」

ラウリィが低く言う。


ボンネットの瞳が怪しく光った。

彼は白い“種”のようなものを一握り取り出し、地面に撒く。


「クリエイトスケルトン。」


撒かれた種は大きく膨らみ、人の骨の形を成して立ち上がる。


「カカカカカカ!!」


「彼らは人の骨から造られたゴーレムです。

魂は魔力に、屍体はゾンビに、骨は前衛になる。

……さぁ、ラウリィさん。お得意の聖なる魔法をご披露くださいませ。」


スケルトンたちが襲いかかる。


「ピュリフィケーション!!」


ラウリィを中心に白い円が広がり、骨たちは雄叫びを上げて崩れ落ちた。


「下衆が……。

俺の魔力の消耗を狙うにはくだらなさすぎるぞ?

こんなもの、何千体でも浄化してやる。」


ラウリィは苛立ちを露わにする。


優人は、ボンネットの戦い方に強い違和感を覚えた。

――王都の門の目の前まで近づき、あえて騒ぎを起こす必要はない。

本来の目的はエルザ神殿の“サナ”である。

ならば、気付かれぬように神殿へ向かう方が合理的だ。


「リッシュ。」

優人はそっと近づき、小声で呼びかけた。


「どうした?」

リッシュは目を離さないまま答える。


「エルザの神殿に行ってくれ。サリエルがそっちに行っているかもしれない。」


リッシュは目を見開く。

「なぜ、そう思う?」


「ここで戦う意味が無い。

ボンネットはラウリィの気を引く“囮”だ。」


リッシュはすぐに頷き、神殿へ走り出した。


神殿には綾菜・シリア・ニーナがいる。

3人とも魔法戦なら強いが、逆に“魔法対策”には弱い。

オプティムを出されれば苦戦する。


そこで――唯一の万能職であるリッシュが要になる。

リッシュは魔法が中心の戦い方ではあるが剣の腕も並の戦士並みにはある。

優人達のパーティーの中で唯一の万能職でもあるのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る