34 増える転移召喚者

「ええっ、もしかしたらボクが港町に野良転移召喚者で出現していたら……」

「やられちゃってたかもねー」

「えーやだー」

 そんな女子トーク? をしていたら、厨房からリリカさんが戻ってきた。

「なに頓馬な話をしているんですか。そんな訳ないじゃないですか。はい、これ――」

 なんと樽型のでかいコップでエールを持ってきた。エールとは少しフルーティな温いビールといったものだ。つまりお酒。

「リリカちゃん、これお酒じゃないの? あたしたちも飲んでも大丈夫なのかなあ?」

「大丈夫大丈夫、こちらの世界じゃ十四歳になったらみんな飲んでるものなのよ」

 興味津々なクボちゃんが食いついた。

「へぇ……それじゃ飲んでみようかな」

「はい、シノヤマさんもどうぞ」

「えっ、ボクはちょっと……」

「いいからいいから、おいしいですよ」

「そうですかぁ? じゃあちょっとだけ……」

 ボクは二三クチ飲んだだけで、すっかり酔いが回ってしまった。初めてのお酒だからというのもあるのだろうが、お酒に弱すぎかもしれない。

 一方クボちゃんとリリカさんは、なんだかすごい勢いで飲み続けている。そしてベルンハルトまで!

「なによ、シノちゃん、もう寝ちゃうの? 弱スギィ。きゃははははは」

「クボさまお強いんですのね。まっ、私には及ばないでしょうけど。ぐびぐびぐび」

「僕ぁ未成年が飲酒するのは関心しないなぁ。ごっごっごっごっ。ぷはー。これ結構強い酒じゃないですか。僕はもっと強いのでも平気ですけどね。ごっごっごっごっ」

 酒豪……そんな言葉が頭をよぎった。


   *


 翌朝アリシアさんと転移召喚者のふたりは、勇者の適正をセンターギルドで調べるため、王都へと向かった。

 ボクとクボちゃんは遺跡ベースキャンプに残ったものの特にやることがないので、ここでも暇なことに変わりはなかった。

「うぇぇぇ、ぎぼぢわうぅぅ」

 しかしクボちゃんは二日酔いに苦しんでいた。なんとなくこうなるんじゃないかなとは思った。車酔い、馬酔い、カディール酔いが酷いクボちゃんは、やはり酒でも悪酔いした。昨晩は初めてのエールをしこたま飲んでいた。飲んでる時は気が付かなったのだろう。ボクはほんのちょっと飲んだだけですぐに眠ってしまったので、むしろ快眠だった。寝起きもとてもよい。。

「あ……あぁ、クボさんシノヤマさん、おはようございまスすゥぅ……」

「おはようございます。リリカさんもちょっと具合悪いそうですね」

 なんだか顔色が悪い。彼女も二日酔いか。

「実はそうなんですよ。私はあまりお酒強くないのだけど、美味しいからついつい飲み過ぎちゃいましてねえ」

「昨晩はクボちゃんとずっと話をしていたみたいですね。それでお酒も進んだ……と」

「今日は一日大人しくしているので、あとはよろしくお願いしますね。あ、この遺跡キャンプや探索研究施設内なら好きに見て回っても大丈夫ですからね。でもダンジョンには行かないでね――」

「わかりました。リリカさん……お大事に」

 とはいうものの、何か魔法技術遺跡での発見があったわけでもなく、探索中のダンジョンで何かあったわけでもなく、ほんとに何もすることがない。

「シノちゃぁん、あたしも今日は無理なので横になってるね」

 シオシオになってる剣聖クボちゃんもなんだか見た目に反して可愛くみえてきた。


   ◯


 アリシアさんたちが王都に向かった翌日。森のギルド支部から血相を変えた王国の使者が、聖女アリシアさんからの伝言を携えてカディール二騎で遺跡キャンプに訪れた。


(「森の中の街道でまた転移召喚者が多数発見された。シノヤマさんとクボさんは至急王都に戻ってください。まだ発見が継続中で人数はもっと増えそうです」)


「やはり森の中で何かが起きているのでしょうか――」

 リリカさんが怪訝そうな顔で、伝言のメモを読んでいた。

「シノヤマさんとクボさんは、すぐに王都に向かってください」

 どうも伝言メモによると今回の転移召喚者リストに「黒い長髪で長身の女性」が含まれているらしい。もちろん全裸で。

「……! 森久保先輩がいるかも? リリカさんはどうするんですか?」

 そう聞くと、

「私はここを監視……いや、管理しないといけないし、何か発見があればすぐにあなたたちに連絡も出来ますのでここに残ります」

 やっぱり監視なんだ。

 王国の使者のひとりが、

「私たちが連れて帰りますので大丈夫ですよ。なあにカディールの扱いには慣れてますからね。ぶっ飛ばして行きますよ!」と、意気揚々。

「うっ……お手柔らかに……」

 クボちゃんがまた不安そうな顔になって呟いた。どれだけ揺れるのか想像しちゃったのだろう。

「僕もここに残るよ――」

 そういうとベルンハルトはリリカさんの方に近づいていった。

「まあベルンハルトはいてもいなくてもどっちでもいいけどね」

「相変わらずシノちゃんは言い方が酷いなあ!」

 とくに準備すべき旅の支度があるわけでもないので、迎えの王国の使者たちの乗ってきたカディールに乗り込んだ。



          ―― つづく

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